5 こんな事なら
華の発言に慌てふためく隆太。
そして、更に。
隆太に追い打ちをかける事態が発生した。
そう。
このビルは駅と直結する商業ビル。
本が並ぶフロアの隅の階段とはいえ、学校帰りに本屋に立ち寄る学生やビジネスマン、子供の手を引いた母親達などが、通路や本屋の中から隆太と華の様子を伺っていたのだ。
何あれぇ!
うっわ、バカップル?
でもでも男子、イケてんじゃん!
女子もじゃね?
ままー。あのお姉ちゃん達何してるのぉ?
きっとアオハルしてるのかもね。ふふっ。
あうはる〜? ふふ~?
周りの視線と、聞こえてくる会話に焦る隆太。
(すっげえ恥ずかしい! でも、逃げ出したらきっともう……うお?!)
「ななな、何してるの?! ねえちょっと!」
「……んでけ、飛んでけ。痛いの、痛いの、飛んでいけ。痛いの、私に来てください。痛いの、痛いの……」
トドメの一撃は、一生懸命に隆太の腕を涙目でさすり続ける華の姿。
「うっわー?! もう治った! めっちゃ治ったから!」
「もっと気持ち込めれます! 痛いの、痛いの、飛んでいけ……」
(くっそお! こんなの、ヤバすぎだろが!)
隆太にクリティカルダメージ。
そして、華の言葉と態度に悶絶する隆太はさすられている腕の先にも気が気ではない。腕を支えるように、隆太の手の横に添えられた華の手。
(冷えた手。床に座って寒いだろうに……俺の事ばっかり心配して)
隆太は階段から立ち上がり、そっと華の腕を取った。
「もう全然、痛くないよ。ありがと、君のお陰。立ち上がろっか」
「よかったあ! あ、ありがとうございます……あ! 足が痺れ?!」
「あ」
ぽふん。
よろめいた華の頬が、隆太の胸に収まった。
(勘弁……してくれよ、神、様。こんなんじゃ俺、諦めらんないだろ……)
華の腕をそっと支え、立ち尽くす隆太。
(こんなところをこの子の彼氏が見たら、誤解するに決まってんだろが……そっと押し返せ。離れろ。俺、早く。……何度か一緒に帰ってるのを見た、あのイケメン)
ここ一ヶ月、帰りの駅のホームや改札で隆太が何度か見かけた、華と同じ制服のイケメン男子が楽しそうに笑いながら歩く姿。
(初めて見てからしばらくは、女子と一緒に帰るのを見るくらいだった。それが……。こんな事なら恥かいてでも声かけりゃよかった……マヌケすぎんだろ、俺)
隆太は泣きそうになる。
勇気を出していたら、もしかしたら。華と並んで歩く自分がいたかもしれないのにと。
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