4 くるり

 華が階段に直撃する寸前で腕を掴み、くるり、と体を入れ替える事に成功した隆太りゅうた


 だが。


 とっさの事に衝撃を避けられる訳がなく背中と肩を打って身悶える。


 ●


「尻に……背中に階段が刺さった?! あたた……大丈夫……?」

「……は、はい」


 背中を起こし、返事にホッとした隆太の腕の中で、華は頬をその胸に預けている。


「ま、ケガがなさそうでよかった」


 そんな隆太を見つめる華は不安げに聞いた。


「…………な、んで」

「え?」

「何で私なんかをかばって……」

「ええ? ……気になる事があったから、さ。たまたまだよ」


 そうは言っても、隆太自身も信じられないくらいの動きだった。何とかできてよかった! と安堵の表情を見せる隆太に華は泣きそうである。


「本当にごめんなさい。私、治療費払いますから! 病院に行きましょう!」

「大丈夫だって! 俺、ちょっと格闘技かじってるから、こんなの慣れっこだし。とにかく、建物の中は走ったらダメ」

「ごめんなさい。もうしません……ありがとうございまし、たっ?!!」


 ふんわり、と眉をしかめ、優しく笑った隆太に頭を下げた華は、そこで異常事態に気づく。好きだと気付いた男子の腕の中にいる事に。


 好きな人の温もり。

 そして息遣いを感じられるほどの超至近距離。


 恋する乙女なら喜ぶべきシチュも、華にとっては未体験ゾーン。

 様々な感情が華に押し寄せて、挙動不審の限界突破が始まった。



 一瞬の硬直の後、ズザザザザッ! と四つん這いで後ずさった華は、三つ指を付いて頭を下げ、


「と、飛んだ御無礼をつかまつりまちっ?! ……! ……!!」


 舌を噛んだ。


「侍ぃ?! ……あ、だ、大丈夫……? 何か痛そう」


 土下座の状態のまま両手で顔を隠し、プルプルと震える華。


「ううう……!」

「土下座っぽく見えるし、謝る必要なんてないからそのカッコやめようか!  俺が勝手にやった事だ、しっ」 


 隆太は予想外の華の言動に手を伸ばしたが、階段にぶつけた腕の痛みに眉をひそめ、ふう、と息を吐いた。


「ああっ!」


 だだだだだ! と駆け寄った華は正座をし、涙に濡れた瞳で隆太を見上げた。


「あ、あああ……私のせいで……」

「さっきも言ったけど痛いのとか平気だし、本当に気にしないで。……それよりさ、さっき何で走り出し……」


 腕を軽くさすりながら苦笑いする隆太に、華の暴走は加速した。


「任せるでござる!」

「……へっ?」

「痛いの痛いの飛んでけ、って! 超気持ち込めれるでござる!!」

「だから何で侍っぽいの?! それに待って! 待って! いったん落ち着いてえ?!」

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