ジックリとまずは見てみようか

「隣良いかな」


 思い思いに休息を取る中、私はバーバラに問いかけた。彼女は湖の縁に座り込み、裸足になった足を浸していた。


「無理」


 返答は無感情なものだった。


 ただ、この返答は分かっていたつもりだ。


 彼女は最初から私に敵意を持っていた。明らかに邪魔者としての視線を送ってきていた。しかし、それを理解していたのは私だけではなく、今のやり取りを聞いたメンバー達も理解している事柄だった。「オイ」とネネが言った。迫力のある低い声だった。一瞬の内に不穏な空気が通ってゆく。


 幸いなことに、いつもは程々に賑わっている休憩場所も、今日は誰もいなかった。もう一つ気付いていることがある。それはネネとバーバラの会話が一度もなかったことだ。バーバラが私を見る以前に、そもそも二人の空気が悪かったのである。それらをマイペースなレイジュと温和なアルタイルは無かったものとして扱っていたけど、私の行動により進展を迎えたようだった。もちろんそれは、私も少々思惑を持ってのことだ。


「お前のその態度が気に入らねえ」


「なによ」


「明らかに不機嫌だろ。最近ずっと」


「そんなことないわ」


「言いたいことがあるなら言え」


「ないわ」


「キキョウが他に取られたらお前の所為だ」


「ああ、あたしの所為よ。それでいいわ」


「だから何だその態度は」


「普通よべつに」


「普通じゃねえから言ってんだよ」


「あら、そうなの。でもこれが普通よ。残念ね」


「殺されてえのか」


「殺してみなさいよ。粋がっているだけの貴方に出来るのならね」


 ネネは拳をつくって振りかぶった。流石にアルタイルが立ち上がって止めに入る。単純な力だけならアルタイルが一番だ。ネネも本気でそうしたい訳ではなく、簡単に抑え込まれた。二人は睨み合っている。


 私は皆の様子を眺めながら、様々な情報が脳に流れてくるのを感じていた。ありとあらゆる事情が明瞭となって降り注ぐ。今まで掴めずにいた糸口を掴めたような、始まりと終わりの景色を見たような、途轍もない直観に襲われていたのである。私にはしばしばそういうがあった。


 そしてそれは、私が自分の所属するパーティーを決めるに当たって、とても重要なことだったのだ。あるいは、私の意欲をかき立てるために必要ななのだ。兎に角今の私は傍観者である。唯一親しみのない私が、事のあらましに終止符を打つべく、乾いた両の手のひらを叩いた。


「確かにそれは懸念すべき点だ」


 私はネネとバーバラを見据えて言った。


「命を預ける仲間である者たちが仲たがいをしている。確かにそんなパーティーに参加したいと思う人間はいないだろ。言わずもがな、私もそうさ。背中を預けている人間に矢を射られる可能性も考慮しなければならないからだ。これは信頼関係を築く前の話だ。私が憤怒の雷に加入しないとなれば、それは確かにバーバラの所為だよ。だから、選んでおいてほしい。私を加入させるならバーバラは要らないようだ。どっちでもいいよ。ただ、刃蠍すら殺せない弓使いは必要ないと思うけどね。もしくは、君たちのその関係性を正しくすることだね。今の状態ではどうにもならない。ただ、思い切って言わせてもらうよ。少し見ただけで分かる。この先も限りなく進んでいく為にバーバラは邪魔だ。ああ、分かっている。分かっているんだよね。だから君は拗ねているし、君は怒っているんだ。難儀だね、才能というのは。でもま、私がいるなら省ける部分は省くべきだ。バーバラがやってきたことを、私はより決定的に行うことが出来る。魔術士としての威信をかけよう。だからここでの問答は止めてくれ。私がすべてのパーティーと依頼を終わらせる前に、この問題を片付けておいてほしい。どちらかを取るのか、どちらも取るのか。そしてその解に私は何と答えるのか。慌てることはないよ、ジックリとまずは見てみようか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る