おっぱい大きいじゃん

「むつかしいことは、わかりゃしないのさ」


 合流早々に、ネネは大声でそう言った。


 それぞれの役割を決めている時のことだ。ネネのパーティーは『憤怒の雷』という名前らしかった。


 憤怒の雷は五人組だ。戦士ネネ、戦士アルタイル、戦士レイジュ、斥候カレラ、射手バーバラと、前衛に重きを置いた編成になる。ただ編成とは言ったけど、彼女らは好きにやっている。統制が取れた天命の守護者と比べ、それぞれが自由気ままに魔物を殺す戦い方なのだ。


 私が明確な役割を問えば、分からないから適当にやれとの解だった。私としては何事も周到にしたいたちではあるのだけど、郷に入っては郷に従うべきでもある。こういうのも一興だろう。私は私で勝手に万全にしておけばいい話だ。彼女らにとってはそれが万全なのだ。


 ネネたちは主に西門の先にある黄昏の荒野が狩場だった。日銭をここで稼ぎ、黄昏の荒野にある魔宮の踏破を目指していた。


 群狼の森とは正反対の環境で植生がほとんどない。高い岩壁による高低差が多く、体力を摩耗する。出現する魔物は大猪が多く、特段危険なのは刃蠍ジンカツという毒性の魔物だ。


 鳥類の魔物も生息しているから、空にも警戒が必要である。一方で森よりは死角が少ないから、魔物が現れても不意を突かれることはあまりなかった。それにここは私の庭のようなものだ。


 自身が持つルーンを司る環境というのは、魔力消費を抑え、環境をそのまま使うことによる大規模魔術、略式詠唱でも威力が十分な事から、戦闘の速度も上げることが出来る。偶然ではあるものの、私を連れていくのに、これほど最適な場所はない。ただ、今日の魔境は前座に過ぎなかった。


 ネネはいつも通り魔宮に入るらしかった。


 彼女らは私の事を助っ人くらいにしか思っていないようだった。連携もくそもないのだから、慣らす必要もないというわけだ。私としても日銭を稼ぐ趣味はないから、その方がありがたかった。それはそれとして、黄昏の荒野ももう少し散策してみたいけど。


 魔宮の前には冒険者組合が設置した簡易施設群が連なる。簡易とは言うものの、ほとんど村がそこにはあった。


 フローレスから約三時間ほどかけてここまでやってきた。私たちは、これから数日間ここに滞在するらしかった。当初は一日のつもりだったけど、魔宮に潜るとなると一日二日では足りないようだ。


 皆が大きな荷物を持っている。そこには数日分の食料、特に水が嵩張った。戦い方に計画性を取り入れていないだけで、ネネたちも冒険者としての準備は心得ている。


「ああ。嫌だなあ……」


 レイジュが魔宮を見上げながら言った。


 レイジュは常に眠気まなこで空を眺めているような気分屋の女だ。戦うことはあまり好きではなく、ただ幼い頃から仕込まれた体術くらいしか取り柄がなかったから、仕方がなく冒険者を生業にしているらしい。


 銀色の長髪は綺麗に手入れされているのが分かる。顔の化粧、褐色の肌や爪先、まるで年頃の町娘のように女を感じられた。手甲による近接格闘をする武闘派とは到底思えない。そんな彼女は魔宮に潜るのが好きではないようだった。


「ここに入るとさ、暫く身体を洗えねえんだわ」


 私の視線を感じ取ると、レイジュは言った。


「ああ。そうなるね」


「汗かくから化粧も流れる」


「化粧をしてくんな」


 ネネが割り込んで言った。


「うるせえ。顔が整っている奴に俺の気持ちはわからねえ」


「はは」


「いや、キキョウ。お前もだからな」


「アラ。私は美少女だからねえ、仕方がないねえ」


「むかつく」


「レイジュも良いところがあるよ」


「アアン?」


「おっぱい大きいじゃん」


「おお、確かに」


「違うんだよなア。邪魔なんだよなア」


 確かに激しく動く格闘家には不必要なものなのかもしれない。


「じゃあ私のと交換しようよ。私は大きくても困らないから」


「嫌だっつの。何で俺のアイデンティティをあげなきゃなんねえんだよ。これで良い男捕まえて引退するんだよ」


「出来るといいね」


「やめとけよ。それに釣られる男なんてさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る