アストロQ・付録 作中の政策まとめ

大石雅彦

「アストロQ」本編付録

ここでは、付録として小説「アストロQ」に登場する、政策および選挙などに関するアイデアを解説していきます。


【市長選討論会】

選挙の際に、候補者による討論会が開催されるようになったのは、それほど古いことではありません。私の知るところでは、1996年2月にリンカーン・フォーラムが京都市長選で実施した公開討論会がその嚆矢ではないでしょうか。

https://www.touronkai.org/

現実に開催される討論会では時間の制約もあって、「アストロQ」で描いたような白熱した議論はあまりないようです。各候補が政策や主張を述べ、質問に答えるだけでも1~2時間かかりますから。それでも、候補者が一堂に会して、直接質疑できる機会は貴重なものです。


本作中では、興味を持ってもらえるように討論会に格闘技イベントの要素を取り入れました。「デモクラシー重戦車」といった二つ名の設定、派手な登場パフォーマンス。ポスターなど告知ツールもそんな感じで作ったら面白そうですよね。

自治体では青年会議所が主催するケースもあります。あなたの住む地域で開催されたら、一度参加してみてはいかがでしょう。コロナ禍以降は、リモートで実施するケースも出ています。企画次第で、面白くなりそうですね。


【象徴首長制】

本作のキモの一つである、象徴首長制。現行法の枠内で、どうすれば熟議民主主義が可能になるかを考えた結果、苦し紛れにでっちあげた概念です。いずれ政治家はアルゴリズムと猫になる、と言い出す学者もいるので、あながち夢想ではないのかもしれません。

ただし、このシステムは単純な多数決だけでは十分に機能しません。作中で描いたように、細かくケアしマネジメントするための仕組み設計が重要となります。そこで、アストロノーツのような協働プラットフォームが必要になってきます。


【アストロノーツ】

私、語呂合わせが好きなんです。ダジャレとも言いますが。

アストロ○○、という派生語を生みやすい単語を冠しているので、作中でも色々使ってみました。

コロナ禍以後、グループウェアやクラウドを活用したプラットフォームが一般化していますから、アストロノーツ的な政治参画システムも実装がより簡易になり、発展・普及を見せるのでは?と期待しています。


【オウンドメディア】

情報を探索するとき、誰もがまずネットで検索する時代になりました。検索に対し上位表示されることを狙って、一般に5,000文字前後の関連トピックを記事化して自サイトに掲載・蓄積するのがオウンドメディアです。そして、その内容や対象者を意図的にコントロールすることを、コンテンツ・マーケティングと呼びます。

主に商用サイトで用いられる手法ですが、政治や社会活動においても有効です。

アストロノーツやMINNA,PIMBYのサイトに誘導する導線として、もうちょっと具体的に描いてみても良かったかもしれません。


【選挙ポスター】

選挙の度に、運営するためのお金も人手も物資も結構かかるんですよ。候補者ではなく、国や自治体が使う費用です。例えば、選挙ポスターの掲示板。ポスターや選挙はがき、自動車など選挙活動にかかわる出費については、ある程度公に支給されるんです。もちろん収支報告書の提出が求められますが。


ポスターやはがきなどの印刷物は、選挙が終わってしまえばゴミになります。木製の掲示板も、かなりの数を用意しなければなりません。原資はすべて税金です。せめて駅前とか、主要な場所に関しては電子化したらどうか、という議論もあります。普段は情報掲示板にしておいて、選挙のときには選管がデータで一斉配信するという。確かにそうなれば効率的ですね。

 

拙作のように、掲示作業を候補者同士が相乗りするやり方もいいと思うんですけど、いかがですか?


【市長選情報センター】

選挙に際して、特にマスコミもあまり取り上げない地方選挙の場合などは、本当に情報が少ないんです。公的な媒体としてはポスター、選挙ハガキ、選挙公報くらい。webやSNSをやってる候補者は限られてますし、チラシもたまたま手に入るもの以外は見られないわけで。

だから、そうした媒体資料を一堂に集め、かついつどこに行けば候補者に会えるのか、過去にどんな発言や活動をしていたのか、などが参照できる施設があると、投票率も少しはあがるのでは?と考えました。それをサポートする専門職としての図書館司書、コンシェルジュがいるとさらに効率的です。言ってみればプッシュ型とプル型のメディアをつなぐ拠点ですね。


候補者情報以外にも、評価の前提として

・現在市で計画されている主要な事業

・過去と当期の予算と決算

・議会での質疑のあらまし

・将来の見通しと主要な課題

などに関する資料も必要です。だれに投票するか、そこに行けばワンストップで参考情報が取得できる場所を作るのは、投票率向上に有効だと思いませんか。


本作では神社の境内に設置しましたが、交通の便が良い箇所が望ましいでしょうね。


【アストロ市民フォーラム】

参院選や衆院選では、大手メディアでも選挙特番が組まれます。しかし、地方選挙だとリソースが限られて、なかなか難しいようです。

ネットでの動画配信コストもだいぶ下がってきましたので、地方紙、地域ミニコミとかが主体となってエンタメ的にやってくれませんかね。企画次第で面白いコンテンツになりますよ。

討論会のように、JCや地元有志が主催するのももちろんアリだと思います。


【政治家スカウターシステム】

政治家の“戦闘力“を数値化する試みは、実際に例があるようです。作中で描いたように、リアルタイムで「ま、まだ上がるのか!ヤツは化け物か」みたいになるのはまだ当分先でしょうが。

これについては数値化の根拠、基準をどう設定するかがキーになりますね。トレカにしてカードバトルするシーンを作中に入れようかと構想していましたが、余裕がありませんでした。

既存の政治家をモチーフとして作ったトレカは、実際にあるようです。


【選挙写真コンテスト】

投票証明を持っていくと割引サービスが受けられる、という投票促進策があります。これは、そのもう少し積極的な企画でした。全ての候補者事務所を巡ると、記念品がもらえるスタンプラリーなんかも面白そうじゃないですか?


【予算エキスポ】

予算編成って、大変な作業だと思います。職員はたぶん、その期間そればっかりになるのではないでしょうか。市の広報誌にも、予算案は特集号で掲載されることが多いですね。なのに、市民の関心は薄く、じっくり読み込む人は少ない。

自分ごととしてとらえてもらうには、やっぱりイベントやエンタメの要素が必要だと思います。そう考えて作ったのが、この「予算エキスポ」です。予算編成を少しでも身近に感じてもらえれば、きっと投票率もあがります。


【ホン自民党】

自由民主党って、良い名前ですよね。果たしてその名前の通りの政党になっているのか、昨今の裏金疑惑でさらに疑問視されております。

「自民党」をベースに、もうちょっと気の利いた名前にしたかったんですが、思いつきませんでした。「シン自民党」じゃベタだしね。

「本家自民党」VS「元祖自民党」てのも、構想時の候補にはありました。


【地域通貨PIMBY】

地域通貨、デジタル通貨は金融や経済政策が関わってくるので、なかなか難しいんです。ツッコミどころが色々あると思いますが、どうかお見逃しください。

作中で紹介しているアトム通貨は、よく知られた成功例です。

当初の構想では、路上生活者支援とからめて考えていました。それ故の「NIMBY」ならぬ「PIMBY」というネーミングになったものです。


【ミクロネーション国家連携】

構想の過程で、明日登呂市をいっそ独立させようか、と模索した際に色々調べたときの情報が、ここには反映されています。


詳細は【近況ノート】実在するミクロネーション  をご参照ください。 https://kakuyomu.jp/users/Masahiko-Oishi/news/16817330650426672763


この要素を取り入れたおかげで、はっとり卿の活躍シーンが増えてしまいました笑。


【落選運動】

2021年の横浜市長選では、自民党系候補と立憲民主党系候補に対する落選運動が話題となりました。

選挙への、落選運動という新しい関わり方が認知されるにつれ、法整備の気運も高まっています。いまの公職選挙法が、時代に合わなくなってきている一例と言えるでしょう。

参考→

https://www.tokyo-np.co.jp/article/180478


【憲法9条軍】

自衛隊を「国防軍」「防衛軍」に改称し、その存在を憲法に明示しようという動きが、政府与党を中心に出ています。

日本の国土や国民を護るため、いつまでも日陰もの扱いにしておくことはできない、というのが主な理由です。しかし、政府はずっと憲法解釈のもとで「合憲」としていたのではないでしょうか。


いずれにせよ、9条は前文と共に日本国憲法の大きな柱のひとつをなすものです。変えるのか、変えないのか、変えるとしたらどう変えるのか。変えないのなら、なぜ変えないのか。今後、国際社会における我が国のあり方を示すフラッグとして、9条の扱いはとても重要だと思います。


作中では、自衛隊を正式に日本の軍隊として位置付けるのであれば、憲法を変えるのではなく自衛隊の方を現憲法に合わせたらどうか、という発想にしました。そうすることで、我が国にしかできない世界平和実現への道筋を、世界に示す恰好のメッセージとなるのでは?という希望を込めています。


【Community Continuity Plan】

災害やテロに際して、ビジネスの勢いを止めることなく継続する方策をあらかじめ用意する。そうした危機管理プランをBCPと呼びます。たとえば、海沿いの工場が津波被害で稼働できなくなった場合、提携する他地方の工場にバックアップしてもらう態勢を日頃から準備しておく、などです。

同様に、自治体もそのような「備え」をしておく必要があるのでは、という思想から、CCPの名の下で対応を考えるところも出てきました。

参考:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejsp/69/2/69_I_37/_pdf

コミュニティ・レジリエンスの考え方に基づくコミュニティ継続計画(CCP)策定手法の提案(土木学会論文)


ビジネスの場合であるBCPと異なり、CCPではそこに住む人々の、「生命維持と暮らしの継続」が最も重要となります。東日本大震災以降、そこをポイントに計画化することが求められつつあります。2024年1月の能登半島地震でもそうですが、過酷な環境下で震災以後の生活をどのように維持するのか、ぜひ知見を結集してほしいところです。


【芦川駅前商店街・復活大博覧会】

本作の集大成として、VRやAR、デジタルを用いた先進技術を、ノスタルジーや人の思いと結び付けるお祭りを企画しました。これに近いことは、もうすでにできそうな気がしています。


※とりあえず、主要なアイデアを簡単に解説しました。執筆が長い期間にわたってしまったので、忘れているところもあるかもしれません。気が付いたらまた補足してまいります。

「アストロQ」を応援してくださった皆様には、改めてこの場で感謝の意を表します。

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