アフタースクール

千織

第1話 バレンタインデー

今日はバレンタインデーだ。


告白されて彼女ができれば、普通はそのまま街へデートに行くだろう。

高校生なんだ。

多少は遊びに行ける。

ま、経験がないので、あくまで妄想だけど。


そんな可能性がなきにしもあらずなのに、俺は幼馴染で親友のハルマに「一緒に家で勉強しよう」と誘われていた。

強気に、「放課後の予定を空けておきたい」なんて言えなかった。


なぜなら、俺よりハルマの方が断然カッコよく、チョコの数で測るなら10倍はモテるからだ。

カッコよくない方が予定を空けておきたいなんて、言えやしない。




朝、登校した途端、ハルマがもの凄い勢いでチョコをもらっている。

クラスが一緒の子なら、気を遣って俺にもチョコをくれる。

本当にありがとう。


ハルマは毎年のことなので、毎回ちゃんと持ち帰りの袋を用意しつつ、なんと、その場でお返しもしてしまうのだ。

「誰にもらったかわからなくなるから」だって。

羨ましい悩みだ。


バレンタインデーということもあり、ハルマは1日のうちに何回か呼び出されて告白されていた。

呼び出されて教室を出ていく落ち着きたるや、先生に呼ばれて職員室に行く、のと同じだ。




そんなお祭り騒ぎの1日だったが、結局ハルマは誰とも付き合わなかった。

あらかじめ、勉強の予定を入れるくらいだから、気になる子はいないんだろう。



俺とハルマは幼稚園からずっと一緒だ。

ハルマがものすご〜く巧妙に隠してない限り、ハルマは高1の今まで彼女はいない。


そこそこの男子でも初体験があるのに、美形のハルマが童貞。

ハルマは自信があるのか、それをむしろネタにするくらいだった。


「ほら、俺って奥手だから、童貞なんだ。早く俺の童貞を奪ってくれる人いないかな。」


なんて、堂々と言う。

男の中でも、冗談で迫ってくる先輩もいるくらいだ。


ハルマはどこに誘われても、俺と一緒じゃないと行かない。

だから、周りからは俺と付き合ってんじゃないか、とすら思われている。


まあ、思われても仕方ないくらい一緒にいる自覚はある。

ハルマといると、女の子と話す機会はたくさんある。

でも、やっぱり俺も彼女ができたことがない。



――――――――――――


学校からハルマの家に移動した。

小さい頃からどちらも両親が共働きで忙しく、お互いのどちらかの家で過ごすのが習慣になっていた。


ハルマが、チョコを広げて、整理をし始めた。

もはや業務だ。


「リョウスケ、確か、カナちゃんのこと気になってたよね?」


「あ、うん。」


「チョコ、来てるけど食べる?」


「……食べれればいいってもんじゃ、ないじゃん。」


また振られてしまった。


「ああ、なんで俺が好きな子は、みんなハルマが好きなんだよ。」


いつものことだ。

仲良くなって好きになるのだが、要は女の子はハルマが目当てで、そばにいる俺は踏み台だ。


「女の子なんて、いっぱいいるじゃん。ドンマイ。」


「お前はな。」


ハルマはメッセージ付きのチョコをピックアップして、スマホをいじり始めた。

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