第7話






「お嬢さん、こんな場所ところで寝ていたら風邪をひくよ」


 誰かに身体を揺さぶられた私は目を覚ましました。


 私を起こしてくれたのは駅員さんで、何時も自分が利用している駅のホームが瞳に飛び込んできました。


 普段と変わらぬ景色を目にした喜びと、きさらぎ村から脱出する事が出来たという思いが溢れたのでしょう。


 駅員さんがいるにも係わらず私は喜びの涙を流してしまいました。


 突然泣き出した私を見て驚いてしまったのでしょうか。駅員さんは私を駅長室へと連れて行ってくれました。


 駅長室で、私は駅長さんと駅員さんに自分が体験した事を話しました。


 最初は作り話にしては面白いとか、子供の遊びに付き合っている暇はないとか言って二人共笑い飛ばしていたのですが、村の名前を耳にした途端、駅長さんの顔から血の気が引いていきました。


「お嬢さん・・・悪いがもう一度、村の名前を言ってくれんかね?」


「?・・・きさらぎ村ですけど・・・・・・」


「き、きさらぎ村!?まさか!・・・お嬢さんも妹と同じ目に遭うとはの──・・・」


「駅長!?駅長の妹さんとこのお嬢さんが!?どういう事ですか!?」


 駅長さんは妹さんが自分に語ってくれた体験を私達に話してくれました。


 今から四十年前


 当時、高校生だった妹さんが私と同じような形できさらぎ村へと迷い込んでしまったのだそうです。


 その時の妹さんは特に仲の良かった友達と一緒だったらしいですが、その人は堀川さんと同様、生贄として鬼に連れ去られたのだとか。


 普通であれば友達の両親が捜索願いを出す筈なのですが、それをしなかったのです。


 何故なら、駅長さんの妹さんの友達のご両親には自分の娘に関する記憶が一切なかったのですから───。


 駅長さんの妹さんの友達の親御さんだけではありません。


 親戚に近隣の住民達、友人に学校の教師、クラブの先輩後輩達───つまり当事者である妹さん以外、彼女に関する記憶がなくなっていただけではなく、妹さんの友達の名前が戸籍からも消えていたのだそうです。


「う、嘘・・・・・・」


「本当の事だ。妹の話によると私は妹の友達を可愛がっていたそうだが、どうした事か私にはその子に関する記憶が一切ないんだ。お嬢さんと一緒にいた三人に関してだが、きっと親御さんだけではなく親しい友人達からは記憶、そして社会的に存在そのものが消されてしまっておるよ・・・・・・」


 妹が『きさらぎ村』から戻って来られたのは、お嬢さんと同じように村のものを一切口にしなかったからかも知れんな


 そう言った駅長さんは悲しそうな顔をしていました。










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