第5話






 高級旅館顔負けの料理と温泉を堪能した藤堂さん達がぐっすりと眠っているのに対し、色々考え事をしていたせいなのでしょうか。


 私だけは寝付く事が出来ないでいました。


 散歩したら眠れるかも知れないと思った私は外に出る事にしました。


「喉が渇くかも知れないから財布は持って行った方がいいわね」


 電話やTVがないとはいえシーリングライトはあったのだから自動販売機くらいあると思った私は、通学で使用しているリュックを背負い眠っている三人とおじさん夫妻を起こさないようにそっと出て行きました。


 満天の星とはこういう事を言うのでしょうか。


「綺麗・・・」


 自分が住んでいる場所では見る事が出来ない星空に思わず感動してしまった私は、リュックからスマホを取り出して写真を撮りました。


 暫くの間、おじさんの家の玄関先で星空を眺めていたのですが、突然、遠くの方から幾つかの火の玉が見えてきました。


(まさか・・・人魂!?)


 実は私・・・この世の者でない存在が見える人で、霊感というものを持っているのです。


 ああいう存在に見つかったらやばい状況に陥ってしまう事を、身を持って経験していますので、私は咄嗟に庭先の茂みに隠れました。


 火の玉がこっちに向かって近づいてくると共に幾つもの足音が聞こえてきました。


 どうやら火の玉の正体は人魂ではなく松明のようです。


 やがて足音はおじさんの家の玄関の前で止まりました。


 こんな夜更けに松明を持って人の家を訪ねるなんておかしいと思いながらも、私は茂みの中から玄関の前の様子をそっと窺う事にしました。


「村長、準備は出来たか?」


「ああ、出来ておる。そっちの方はどうじゃ?」


「こっちの方も準備が出来ている。後は美しい娘を祭壇に供えればいいだけじゃ」


「それは上々。一時はどうなるかと思ったが、これで今年もきさらぎ村は安泰じゃ」



 美しい娘?


 祭壇?



 もしかしたら、彼等は藤堂さん達のうち誰か一人を生贄として奉げるという事なのでしょうか?


 今ここで姿を現したら間違いなく殺されると思った私は、村の男達がおじさんこと村長の家に入っていく様子を、ただ固唾を呑んで眺めている事しか出来ないでいませんでした。








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