第5話








編集部の壁に

トマホークで

貼り付けられた、

小説原稿の束があった。




仕事を教えてくれた先輩の

デスクの横には

常に

斧とトマホークが

立て掛けてあった。





「妙な気配のするヤツは

 これで消える」




確かに

その小説を読むと

妙な気配を感じたのだ。



喉の奥に

なにか絡んだような。

ザラザラとした感触が

舌の上を

通るような。





苦い顔をしていただろうか。


「それ よこせ」


差し出された先輩の手に

読んでいた小説原稿を渡した。



「コーヒーでも買ってこい」



1000円札を渡された。

コーヒーを買うには多すぎるが、

先輩は

おつかいを頼む時には

必ず

1000円札を渡してきた。







先輩には

その小説原稿に

なにか見えていたんだろうか。




壁のオブジェを終えて

手元に戻った小説原稿は

普通の小説原稿になっていた。






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