モンブランの悪魔7
SideT
「誰が最初に彼らに模型作りを頼むって言い出したんだっけ?」
里奈ちゃんの所属クラス。1-Cでは物々しい雰囲気が流れていた。
輪になった中心で荒げるようにたんを発したのは、このクラスでもリーダー格と思われる、いかにもスポーツをやっていそうな近づき難い雰囲気を持った男子生徒だ。
演劇の披露も終わって、表面上は大成功を収めていたはずなのに。
……まあ、五頭竜の模型から目を離した俺が全部悪いんだけど。
「
弁天様を凛々しくやりきった里奈ちゃんが、この異様な雰囲気の中でも凛と反論をする。
俺たちとしてはありがたい事だ。里奈ちゃんだけに負担を負わすことはできないと判断したのだろう、翔がすぐに口を挟む。
「なんでも屋として、仕事として俺達は演出の一部を請け負った。そして失敗してしまった。大成功したように見えたとは言え、この過ちは消えることはない。皆さんに深く謝罪する。本当に申し訳ない」
クラスの雰囲気は拓真と呼ばれた生徒優勢モードで、一部の生徒を除いて刺すような視線が翔に向けられていた。
「おっさん。そもそも五頭竜の模型はどこに行っちゃったわ訳?本当はそんなもん作ってなかったんじゃないの」
「おっさん……」
翔は少し大人びた雰囲気で二十歳を超えているように見られるが、俺達と同じ十九歳だ。
おっさんと呼ばれた事にダメージがあったようで、一言だけそうつぶやき、視線を泳がせた。
「間違いなく五頭竜の模型は今日、学校に搬入したの。こちらの手違いがあって、クラスのみんなに共有できなかった事は謝罪する。でも、間違いなく模型はあったの。体育館で里奈ちゃんと一部のクラスメイトには見てもらったわよね?」
落ち込んでいる翔の代わりに奏ちゃんが話に割って入った。
奏ちゃんの問いかけに、里奈ちゃん、そして周りに居た数人の生徒が頷いて見せた。
「はい」
「私は見ました」
嘘をついているのではないか、と俺達を庇う発言をした複数人の生徒疑いの眼差しが向けられる。
これ、結構精神的に来るんだよな。何もやっていないってのは自分が一番わかってるけど、疑われるってのはかなりダメージを受ける。
学生時代よく疑われたからわかるよ。俺には。うん。
なんとか矛先を自分達に向けられないかと考えている間に奏ちゃんが耐えきれず口を開く。
「ちょっと待って!悪いのは私達で、里奈ちゃん達は何も悪くないってことを忘れないで」
「そりゃそうだ」
リーダー格の拓真が嘲笑を含んだ笑みを浮かべる。
これは依頼料貰えないかもな。この仕事は元から赤字だって翔が嘆いていたのに。
「あの……ちょっといいかな?」
微妙な雰囲気の中、控えめに手をあげたのは、里奈ちゃんと一緒に俺達を庇おうとしてくれた女の子だ。
「なんだよ?
拓真は少しめんどくさそうに顔を向ける。
「実は、1-CのOGでもある卒業生の勇利先輩からモンブランの差し入れを貰っているの。そんなに長持ちしないようだから、早く食べてしまわない?」
そう言って佳乃が指を差した先、教室の後方に積み上げられた学習机の上に白い箱が四つ置かれていた。
さすが愛ちゃん!こうなる事を見越して用意してくれたんだね。
「……それもそうだな。じゃあ、俺から貰う事にするよ」
拓真は少し考えるような素振りを見せながらも、佳乃の意見を肯定した。
そして、モンブランの入った箱に歩み寄って行き箱を開く。
そこで拓真の動きが一時停止する。まるで動画の停止ボタンを押したように。
そして、また急に動き出したかと思えば、残りの箱を次々に開封していく。
拓真が何をしているのかわからずにクラスの中にいる人間全員が頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。
次の瞬間、拓真は声を張り上げたのだ。
「━━━━ふざけるな!これもお前がやったのか!?」
視線は俺に向けられていた。
「な、なんの事だよ?」
拓真は白い箱を指差し、俺に箱の中身を確認するように要求してきたのだ。
言われるがままに近づいくと、拓真は俺に場所を譲るように横に移動した。そして、恐る恐る箱を覗きこんでみると、箱の中にモンブランは入っていなかった。
代わりに中に入っていたのは、奇妙なものだった。
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