夜の海岸に現れる龍の謎4
SideY
私、勇利愛華は、貴重な休日を使って、汐音から依頼された、あじさいの色が変わってしまった謎を解き明かしに、由比ヶ浜駅近くの民家を目指し歩いていた。
立花君と別行動にしたのは、さっさと依頼を終わらせて、帰りたいから。
きっと立花君が同行したらすぐに解決したとしても、しつこくデートに誘われるはず。
そして私は、しぶしぶ付き合う事になるだろう。
そこまで見越した私は、あえて立花君と距離を置いた。
ネームの締め切りまでは五日と時間はかなりひっ迫している。
大学に出席しないといけない事も考えると残された時間はほんの十数時間くらいかしら。
しかも、成り行きで書いたことのないミステリーを書く事にもなってしまったし。
あーもう!ごちゃごちゃかんがえていても仕方ないわ!
両の頬を軽く叩いて気合を入れる。
観光客と思われるカップルが不審者を見るような目つきですれ違っていった。
普段ならまたやってしまったと頭を抱える所だけど、今はそんな些細なことを気にしている余裕はない。
それだけ切羽詰まっているのだ。
「できる事を一つづつ」
なんて独り言を呟いていたら、スマホがブルブルと振動した。
画面を覗き込むと、『目的地に到着しました』と表示されている。
目的地は一軒家。佐々木さんのお宅。
眼の前の一軒家。表札を確認するとしっかり『佐々木』と掲示されていた。
昔ながらの洋風建築と言った感じで、そこそこの大きさ。屋敷と呼んでも遜色ない立派な一軒家だ。
玄関横にはレンガが積まれた花壇があり、少し淋しく感じるけど、葉をつけた細い茎が結構な数生えている。
「これはあじさいの茎ね」
ここに来る前に、ある程度の調べ物はしてきた。
よほどの寒冷地でなければ越冬できる事。
花を咲かせるのは梅雨時である事。
そして、あじさいのつける花の色が変わる仕組み。
さっさと調査を開始したい所だけど、先に先方に挨拶をするのが先だろう。
佇まいを正してから、チャイムを押した。
数十秒の間があって、返答があった。
私の来訪は知らされていたようで、説明をするまでなく笑顔の可愛らしい、おばあちゃまと思わず形容してしまうような初老の女性が迎え入れてくれた。
「いらっしゃい。お待ちしていたのよ。汐音さんから名探偵を送るからって聞い、て楽しみに待っていたの」
名探偵……?汐音のやつ、話しを盛りすぎ。盛りすぎと言うより、無いものを脚色しすぎ。
でも、ここに来てしまった以上、その
「お初にお目にかかります。私は勇利愛華と申します。勇ましいの勇、鋭利な刃物の利、愛情の愛に華やかの華と書きます」
「あらあら。これはご丁寧。私は佐々木って言うのよ。よろしくお願いします」
おばあちゃまはそう言うとしゃなりとお辞儀をした。
つられて私も慌てて頭を下げる。
いつ頭を上げたらいいのかわからなくてずっと頭を下げ続けていたら、あらあらと笑われてしまった。
慌てて頭をあげると、優しい笑顔を浮かべたおばあちゃまはこちらへどうぞと客間へ案内してくれた。
かなり恥ずかしいかったけど、無理矢理に笑顔を作って、「お邪魔します」とスカートの裾を上げてみせた。
これがお作法として合っているのかはわからないけど。
客間では紅茶とイチゴのショートケーキを出してもらった。
さっさと帰るつもりだったけど、出されたものは食べないと失礼だものね。
結論から入らずに、少しおばあちゃまと世間話をする事にした。
「今回依頼したあじさいの花壇はね。夫のお母さまから受け継いだものなの。嫁入りしてきた私にもとても優しくしてくれたお母さまだったのよ」
「そうなのですか。それでは今回の事はかなり残念でしたね」
「そうなの。ピンク色に咲き誇るあじさいが大好きなお母さまだったから、今回の事が本当に残念で、残念で……」
おばあちゃまは少し俯き加減でそう言った。
かなり思い入れのある『あじさい』だって事がそれだけで伝わってくる。
「任せてください。また青い花が咲くように、私が解決してみせます」
自分で言っておいてかなり驚いている自分がいた。私そんな事言うキャラだっけ?いや違ったはずだ。
元々人前には出たがり、ではないし、なにか問題が起こっても静観しているタイプの人間だった。
面倒事を押し付けられてもなるべく目立たないように、波風を立てないように過ごしてきたはずなのに。
少しハイになってしまっているのは、おばあちゃまの態度を見てしまったせいか、はたまた、ある程度原因に見当がついているせいか。
「まあ、心強いわ。調べる為に必要な事があったらなんでもおっしゃってね」
おばあちゃまは私の強気な発言に触発されて満開の笑顔を咲かせた。
「では、まず、はじめに、佐々木さんはあじさいの花の色が変わる仕組みをご存知でしょうか?」
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