第40話リーシェ、大聖女になる

『大聖女の試練の合格を確認。リーシェ・シュテイン・サフォークを大聖女と認めます』




「アリス? 一体何を言ってますの?」


「くっくッ」


「誰ですの?」


「どうやらお前は大聖女に認められたようだな」

「ですから、あなたは一体・・・?」



私達の目の前に突如真っ暗な空間が現れましたわ。

誰かわからないが、自分の事を知っている人物に声をかけられていますの。

その闇はすぐに晴れて行ったが、同時に一人の真っ黒な衣装の男が立っている事に気が付きましたの。


黒い服に身を包む男は、黒髪黒目。

明らかに異質な存在ですわ。

それにこの男・・・どう見ても人間ではないです・・・おそらく魔族。



「我の事などどうでもいい。我は、お前の事を監視する者だ」

「監視? 何の事ですの?」

「クククッ。何も知らないのだな。大聖女ともあろう者がなッ」


「さっきから何を言っておりますの?」

「まあいい。それよりも、大聖女になった祝いだ。我がお前について教えてやろう」

「だからそれ以前にあなたは何者なのですの? それに貴方に教えられる覚えもございません」




いきなり現れて、私の事を監視する?

私に何の用があるのか?・・・それに監視とはどういう事でしょう? この魔族は一体何を企んでいるんでしょう・・・。

でも、それよりも今はもっと重要な事を聞かねばなりませんわ。

私が何も知らないとはどう言う意味なのでしょうか? それにこの男からは並々ならぬ魔力を感じる事ができますわ。

この黒い服装と言い、おそらく魔族で間違いありませんわね。

でも一体誰ですの? 名前位名乗るのが礼儀ですわ。



「気の強い女だ。まあいい。俺の正体を教えてやろう」

「・・・で、正体とは?」

「ククッ。我は悪魔皇帝ダークネス・ブラッドだ」

「・・・悪魔皇帝・・・ですの?」


黒い衣装に身を包む魔族は、自らを悪魔皇帝と名乗りましたの。

ですが、魔族の頂点とは魔王の筈、何故魔王より上位とも思える名の魔族がいるのですの? 私はこの魔族の言う事を信じる事ができませんわ。



「名は名乗った。後は聞くがよい。大聖女であるお前のことを」


「一体私の何を知っているのですの?」


「クックっ。お前は我ら魔族の裏切り者・・・と言うことだ」


「私が魔族の裏切り者ですの? あり得ないですわ!」


「本当のことだ。この世に大魔王が生まれた時に大聖女も生まれた。お前の命は大魔王と共に人族を滅ぼすことだ。それが我らを裏切り、人の側についた。そして一人の男に聖剣を贈り、共に魔王を滅ぼそうとした」


「それが六百七十二年前の魔王と勇者の・・・戦い」


「その通りだ。この裏ぎり者。お前に七度の苦しみを与え、その力を大魔王が喰らったのはその復讐のためだ!」


「・・・そ、そんな!」




大聖女だった私が魔族の側の人間だった?




「何故私が魔族の側の人間だったと言うのですの? 私は・・・私は人間ですの!」


「・・・今世ではな」




最初の人生では違ったと言うのですの?




「六百七十二年前の私はどんな存在だったのです? 魔族だったのですの?」


「その通り。お前は紛れもなく魔族だった。にも関わらず、大魔王を裏切り、人間側についた。神の判断に異を唱え、人族殲滅を放棄する所か大魔王様を抹殺せんとさえした」


「・・・そ、そんな! 私が魔族だったなんて信じられませんの!」




『死海文書第三章三節、大聖女は神の命の元、魔族として生を受けるが、神は人を試された。人と魔族が共存できるか・・・を』




「余計なことを忌々しい聖女め!」




『死海文章第一章第一節、大聖女は人と魔族は共存可能と考えた。一方大魔王は不可能とし、人への虐殺を始めた。それを止めるため、大聖女は魔族と人の協力者を従え、大魔王を抹殺せんとした。だが、とどめを刺すに至らず、両者相打ちになった』




アリス? あなたは一体?


アリスは光り輝く転輪を輝かせ、無機質な表情でこちらを見ていますの。




「ええい! 忌々しい聖女め! まずはお前から血祭りにあげてやる!」


「アリスに手出しはさせません! あなたの相手は私ですわ!」


「何を言っておる。お前は大魔王様の贄だ。俺の役目はお前の仲間を抹殺すること!」


「そうはさせません!」




『魔族を敵と判断。敵を殲滅します。 T H M I M S S P 《聖母の慈悲は厳罰を和らげる》』




アリスが白い魔法の光線を発しましたの。


・・・こ、これは。これは勇者のあの白い光と同じもの?


「そんな魔法を喰らう我であるとでも思ったか!」




『TTTL《左方へ歪曲せよ》』




「なんだと!!!」




悪魔皇帝を名乗る魔族はアリスから放たれた光線を避けました。

でも、その光線はその場で何度もねじ曲がり、男を追尾しだしましたの。



「な! この魔法は?」



『TLL《左方へ歪曲せよ》』



「ぬおお!」



『TLL《右方へ向かうが如く』




「おのれ、聖女め! 我をたばかったか! こんな力を持っておるとは!」




私の目の前で、悪魔皇帝と名乗った男がアリスの放った魔法によってどんどんと苦しんでいますわ。


そして、ついに避けても避けても軌道を修正する白い魔法の光に魔族は包まれましたの。




「うぉおおおおおお!」




白い光は魔素とは違う反応。でも、その力は魔素と同じく偉大で力あるものであることは一目瞭然。




魔族が白い光に蝕むかれるかのように包まれると。


僅か一分程で魔族の姿は無くなりましたの。




「・・・アリス。あなたこの力? あなたは一体何者なのですの?」




『死海文章第四章十三節、大聖女が第十五番目の使徒としてこの世界に現れる前に導き手として、第十四番目の使徒、聖女アリスを使わされた』




アリスが聖女? と言うことですの? そして神の使いである使徒。


私は唖然としてアリスをみつめていましたの。

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