第39話リーシェ、決闘する2

『ダークマター』何ですの? そのギフト?


キリカは距離を取り、遠距離攻撃の間合いに入って来ました。


本来、レールガンを持つ私の方が有利な間合い。


つまり、『ダークマター』は遠距離攻撃に適したギフトですわ。




「『ダークマター』はこの世に存在しない物質、この世界の物理法則にも従いません。従って、リーシェさんのベクトル変換の空間魔法も通用しません」


「・・・キリカ」




キリカはわざわざギフトの説明をしてくれた。ブラフでなければ、ただのアドバイスにしかなりませんわ。


そして、おそらくブラフではないのですわ。




「行け! ダークマター!」




キリカから複数の黒い球体が飛んできますの。




「レールガン!」




レールガンで迎撃しつつ、退避行動に出る。


未知の物質でしたら、レールガンをすり抜ける可能性もありますわ。




「!?」




やはり展開しておいたベクトル変換による反射の魔法は機能していませんの。


これは強敵ですわ。私のギフトは『ビリビリ』。与えられたスキルは電撃魔法(小)に過ぎませんの。でも、キリカの『ダークマター』は私とは比べようがない威力ですわ。




「レールガン!」




牽制のため、今度はキリカ本体に向かってレールガンを放つ。


・・・が。




「どうやら、僕のダークマターにはレールガンは通用しないみたいですね」


「そのようですわ」


「それにしても、もう一円玉を使用しなくてもよくなったのですね」


「ええ、一円玉ではなく、聖典の魔力、法力事態を投射しているのですわ」


「魔王が一番魔王に有効な技を持っているなんて皮肉ですね」


「それは確かになのですわ」




キリカの皮肉に答えつつも、私は覚悟を決めていましたわ。


思い出しました。『ダークマター』のギフトのことを。


これも、とある、この世界の英雄譚に登場する超能力の一つですわ。


確かこれを破ったベクトル使い、アクセラレータはダークマターの仕様を解析して、ベクトル変換のパラメータを再設定してダークマターに対してのベクトル変換を可能にして倒していますわ。


しかし、アクセラレータにはダークマターを解析することが可能だった為できたことですわ。


私にはダークマターを解析する技能はありませんの。


前世とこの世界でアリスから強制学習させられた物理法則に乗っ取ってベクトル変換が可能ですが、この世界の物理法則を無視するダークマターに対しては無力。


と、なれば残った策は・・・イマジンブレーカー。


英雄譚でのイマジンブレーカーはありとあらゆる能力を消しさるのですが、私のは違います。


私のイマジンブレーカーは全ての質量を持つ物を消し去るという仕様。


魔素も質量を持っていますわ。しかし、キリカのダークマターに果たして質量があるのですの?


もし、質量が無ければイマジンブレーカーは作動しない。


ダークマターが私を襲い、大けがでは済まないでしょう。


おそらく一撃で戦闘不能。死ぬでしょう。


キリカがポーションで復活させてくれるとは思いますが、私には時間がありませんの。


もう、十八歳の誕生日まで一週間もありませんの。


何とか大聖女の試練を受けて、大聖女となり、あの漆黒の魔物、初代大魔王を倒しませんと。


王国に連れ戻される訳にはいきませんの。


一か八か。イマジンブレーカーが作動すると信じて、魔力が切れるまで、ダークマターを無効化し続けるしかありませんわ。

私は覚悟を決めましたの。



「いきますわよ!」



私は地面を蹴りますわ。

ドン! っと、床を蹴る大きな音がしましたわ。しかし、私の足は止まることなく地面を蹴り続けますわ。まるで宙に浮いているように軽やかに、それでいて超高速でキリカに迫ります。



『狂気の支配者インフィニティシャドウストライク!』



心の中で叫びます。この戦法は本来魔王と戦闘する時に使用し、あの魔王の空間魔法を回避して倒すために編み出した戦法ですの。高速でジグザクに進む進撃。

私がレールガンを打ち出しながらキリカに迫ります。



「僕には君の攻撃は効かないと言っただろ!」



キリカが叫ぶとダークマターが私を覆いましたわ。

その瞬間、私のイマジンブレーカーが作動しますの。


私はイマジンブレーカーを発動してダークマターを殴る。

すると、キリカのダークマターは私のイマジンブレーカーによって、かき消されましたの。



「やりましたわ!」



思わずガッツポーズをとる私。

そんな私をキリカは目を見開いて驚愕の表情で見つめます。

そして・・・



「な? 何? どういうこと?」

「だから、ダークマターを打ち消したのですわ」

「・・・そんな、そんな・・・。あり得ない・・・」

「まぐれでも何でもいいの。私の勝ちですわ」



私は自信満々に胸を張り、宣言しましたの。



「リーシェさん。あなたは・・・。どうして? どうして僕を殺す気がない・・・?」



キリカは悲しそうな表情で私に訊ねて来ましたが、その答えは簡単ですの。

私が何故キリカを殺したくないのか? なんでこんなに回りくどいことをするのか? どうしてキリカのことを気にするのか? そして・・・何故? キリカの方こそ私を殺そうとしなかったのですの? ダークマターのことを黙っていれば、不意を突かれて負けたのは私の方でしたわ。何故?

わからない。ただ一つ分かることは私はキリカを友達として愛さずにはいられないと言う事。




私の拳がキリカを捉えて、キリカが宙に飛んだ瞬間、ヘッドセットに声が聞こえた。




『大聖女の試練の合格を確認。リーシェ・シュテイン・サフォークを大聖女と認めます』




この声は、アリス? あなたは・・・あなたは一体何者ですか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る