第18話リーシェ、セントジョージの聖域を展開する

竜の虚リーダー進藤アキラSIDE


 


ダンジョン配信者の頂点に立つ、進藤アキラは何度も冷や汗をかいていた。


普段なら簡単に倒せる魔物も剣や装備も無く、ましてや身体強化や魔法のスキルなしでは如何ともし難い。


それでも、頂点に立つものの務め、自負が彼を避難より皆を誘導することに専念させていた。




「まったく! 配信者の晴れの舞台を台無しにしてくれたな!」


 


大声で怒鳴るが、魔物相手に怯える人を説得し、避難させるのがやっとだ。




「数が多すぎる! これじゃエッグサイトは長くはもたな・・・ん?」




なんか魔物が一撃で吹き飛んだような気がする。自衛隊か? それに。




「なんか・・・魔物の数が減って・・・る?」




視線を移すと円城エリカが見えた。


彼女がやったのか? いや、そんな筈はない。


ダンジョン外で魔法やスキルが使える筈がない。




「あれは・・・?」




アキラが目を凝らす。


誰かが戦っている・・・としか見えない。


それにしては速すぎだよな。


円城エリカに近づくと、突然壁が崩れ、中層の魔物、オーガが目の前に現れる。




「グァッ!」


「ッ・・・! しまっ!」




ドゴーン


土煙をあげ、地面をめくりあげながら一直線に魔物達が爆散して行く。


 


「アキラさん!」


「え、エリカちゃん? まだこんなところにいたのか?」


「アキラさんの方こそ!」


「今のは一体?」




本来なら有名人二人の邂逅はかなりの話題になるはずだが、今はそれどころじゃない。




「ええ。あれがリーシェさんです。リーシェさんのレールガンの威力です」


「まさか! ここはダンジョン外だぞ?」


「あの人はそのまさかをぶっ壊す為に生まれて来たような人です」


「俺の命を助けてくれた人だよな?」




そう、竜の虚のリーダーである彼はダンジョンの最下層でレアな魔物に苦戦し、仲間を庇って重症、いや、おそらくあの時点で死んでいた。


それをポーションで救ったのが、リーシェ。




ほどなくすると、リーシェ本人が来た。




「き、君がリーシェさんか? その節は命を助けてくれてありがとう」


「何のことですの?」


「いや、ダンジョンの最深部でポーションで命を救ってもらった進藤アキラだ」


「進藤アキラ? 誰ですの?」




グハァ




さりげない一言がアキラにダメージを与える。




「俺、配信者トップだよな? だよな? ただのおっさんじゃないよな?」




ぶつぶつと独り言に移行するが、三十秒ほどで復活する。




「助けに来てくれてありがとう。俺に何かできることは?」


「わ、私も!」




”スゲー。円城エリカ、進藤アキラにリーシェちゃんのコラボ”


”夢の共演”


”例の子?初めて見た”


”リーシェちゃんはアホの子w”




進藤アキラのドローンも配信したまま。




「協力してもらえますか?」


「も、もちろんだ!」


「リーシェさん! 私も手伝わせてください!」




戦力となる者はいない。だが、リーシェは手伝いを乞うている。


エッグサイトには次から次へと魔物が溢れている。


果たして全てを倒すことなどできるものなのか?




「これだけの人数を避難させるのは無理ですわ」


「・・・無理だな・・・警察や俺達探索者が入口を辛うじて守っているのでやっとだ。中にはまだ逃げ遅れた人がいるかもしれない」




エリカが呟く。




「全員を救うなんて・・・被害者が出るのは・・・」




リーシェは顎に手をやると、何か考え込む。


リーシェが全員を救う手立てを考えていると察すると、皆驚いた。


同時にエリカやアキラのチャット欄もざわめく。


 


”無理だろ・・・?こんな絶望的な状況で”


”真剣に考えてるぞ”


”えぇ・・・”


”アホの子じゃなかったの?”


 


「私が魔物を全部倒すので、手伝って頂けませんの?」




二人共呆気にとられる。




「・・・は?」


「・・・え?」




”何言ってん・・・だ?”


”この数を・・・?”


”無理ゲーだろ!”


”でも・・・リーシェちゃんなら”




アキラが冬にも関わらず、額の汗を拭う。




「・・・広範囲魔法か?」


「それじゃ逃げ遅れた人にも当たっちゃいます!」


「攻撃魔法ではありませんのですわ」


「そんな魔法あるのか? 攻撃しないで、どうやってあの数の魔物を・・・」


「私とアリスを信じて頂きたいですわ」


「マ・・・マジなのか?・・・!? ガチ?」




アキラは信じられなかった。


リーシェが真面目に言っているのはわかった。だからと言って、にわかに信じがたい。




☆☆☆




「アリス。考えがあるのですわね?」


「リーシェ様。セントジョージの聖域の応用です」


「成程、あれも空間魔法の一種。とあるのアクセラレータの応用ですわ」


「魔法陣を書きます。発動はリーシェ様! お願いします」




うんと頷き、アリスが魔法陣を書いている間、レールガンであちこちの魔物を攻撃する。




「神座の終わり、八時から十二時の夜半、方位は西方、ウィンディーネは守護、天使の役割はヘルワイン。リーシェ様! 終わりました」


「auxilium≪アウキリアム≫001。I P W C T A」


「発動確認しました。天使の固定化に成功、え? 私?」


「わかりやすい形にしましたの」




頭上に羽根が生えたアリスそっくりの天使が顕現する。




「形は何でもいいのですわ」


「肖像権の侵害です」


「あの? これは一体何が起きているんだ?」




そう聞いて来たのは進藤アキラさんだった。




「この場に聖域を作ったのですわ。同時にエッグサイト内の魔物の攻撃が全て自身に跳ね返るようにしましたの」


「そんなことできるのか?」


「多分」


「でも、何故リーシェさんはダンジョン外で魔法やスキルが使えるんだ?」


「え? 普通使えないですの?」




私は困惑しましたの。


その時、ドゴンという破壊音と共に、声をかけられた。




「魔王!」


「勇者!」




ギュッと二人で抱き合う。




「勘違いしないで! これはただの親愛の情を表わすハグでそれ以上の意味はないのですわ」


「・・・真っ赤な顔で言われても」


 


アリス、不要なツッコミをすると命を縮めますわ。




「ここは俺と魔王で何とかしよう。地上で魔法やスキルを使えるのは俺と魔王だけだ」


「何故私達は魔法が使えますの?」


「俺と魔王の体内には魔晶石が宿っている。魔王や魔族は必ず持っている。あの魔物達を見て見ろ。額に人工的な魔晶石がはめ込まれている」


「そうですの?」




”ちょっ!”


”重要情報”


”リーシェちゃんが外で魔法使えるの魔晶石のおかげ”


”待てよ? それじゃあの魔物は人工的に作られた?”




「魔王はエッグサイト内の魔物を頼む。俺は外に溢れた魔物をやってくる」


「承知しましたの。ご武運を勇者!」




勇者と別れて私は一つ疑問に思った。勇者? 何故あなたにも魔晶石があるのですか?

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