第17話リーシェ、東京エッグサイトを救う

円城エリカSIDE


目の前に魔物が出現している。


「・・・嘘・・・でしょ?」


今日は東京エッグサイトで配信者を中心とするイベントが開催されていた。


ダンジョン配信者も多数参加しており、人気配信者のエリカも当然参加していた。


「早く非難を! 警察だけで対処できる訳がない!」


「エリカさん、早く逃げてください!」


茫然自失となった彼女にスタッフが声をかける。


「・・・ダンジョンでなら!」


悔しさで、その目には涙が。




政府が民間にもダンジョンを解放した最大の理由。探索者はダンジョンでのみ能力を発揮できる。


ダンジョンで戦う時に使用できるスキルや魔法が地上でも使用できたなら、治安維持に大きく支障が出る。


あるいは、ダンジョンに入る者を厳重に管理、監督する必要があったかもしれない。


所以は不明だが、ダンジョン内で使用できるスキルは地上では発動しない。


逆も真である。魔物もダンジョンの外で特殊能力を発揮できない。


それどころか、大型の魔物などは自重でつぶれてしまうなど、生きてさえいけない。


だからこそ、例えダンジョンがあっても地上は平和だった。




警備室では慌ただしく避難誘導と警察への情報提供を行っていた。


「報告します! 魔物の数です!」


「そんなのとっくに聞いておる! 数千だろ!」


「そ、それが最新の情報によると間違っていました」


「は?」


エッグサイトの警備責任者は混乱の中、更に悪い情報に辟易としていた。


「魔物は数千ではなく・・・数十万でした」


「は・・・ははっは」


狂ったかのような声で笑う管理責任者。


とても警察の手に負えるような数ではない。


気が付くと、上への報告を行っていた。


警備部隊の撤退と自衛隊への救援要請を行うためにだ。




「このままじゃ、このエッグサイトだけじゃなく、東京が火の海になっちゃう」


エリカは一人呟く。


力さえあれば、そう思い、拳を握りしめる。


そんな時、同じ配信者のリーシェを思い出す。


「・・・期待しちゃだめ。彼女だってダンジョンの外じゃ」




”エリカちゃん早く逃げて”


”悔しいのはわかるけど、命の方が大事!”




エリカはまだ配信中だったのをようやく思い出す。




「皆さん、ありがとう。私も避難します」




そう言って避難路へ向かう。しかし。




「そ、そんな!」




エリカの目の前の壁が崩れ、突然魔物が現れた。




”ヤバい!”


”だめだ。俺はこれ以上見てられない”


”俺も”


”みんな諦めるな! エリカちゃんを励ますんだ!”




キィーィーン


その時、涼やかな音が聞こえた。




”今の音?”


”もしか”


”もしかして?”




ドゴーン




エリカの目の前の魔物がまとめて吹き飛ぶ。




”キタ――(゚∀゚)――!!”


”これ絶対レールガン!”


”リーシェちゃんだ!”


”でも、なんでダンジョン外で?”




リーシェは六本木のダンジョンの隣の東京エッグサイトにたどり着いていた。


☆☆☆




「酷い状況ですわ」




見渡す限り、あちこちで火の手があがり、警察官が拳銃だけを武器に戦っている。


その一方、怪我人の搬出や避難誘導でごった返している。




「き、君! ここから先は危ない。引き返すんだ!」


「私は剣聖ですわ。スタンビードを撃退するのは私の役目と自負しておりますの」


「き、君は?」


「先日はお手数をお掛けし、申し訳ございませんでした。ここはリーシェ様に任せて下さい」


警察官は、先日職質して来た鈴木という下郎でしたわ。


「ついさっきまで配信見てたんだ。信じていいんだね?」


「ええ、この場を収拾するのは私の役割ですわ」


「その、ここはダンジョン外だけど・・・いや、正直言うと、君ならできそうな」


「ダンジョン外? そんなの私には関係ありませんわ」




警察官鈴木は敬礼して私を見送りましたわ。




「あの時はすいませんでした。みんなを助けてください!」


そう言うと、今度は腰を直角に折り、頭を下げた。


「これは必ず報いる必要がありますわね」




“え? 配信始まったの?“


“て言うか、ここエッグサイト?“


“リーシェちゃん逃げて!“


“リーシェちゃん天然だから知らなさそう“




「皆さん。ここは剣聖の私が責務を全うしますわ」




“いや、ここダンジョンじゃないから“


“でも、期待してるわいがおる“


“同じく“


“リーシェちゃんなら“




ゴクリと唾を飲み込むような緊迫感が伝わって来ましたわ。


眺めると壁が魔物によって崩されて、大勢の悲鳴が聞こえた。




「あれは?」


「エリカさんじゃありませんか?」




アリスに言われて目を凝らせば、そこにいたのはエリカさんですわ。


行きますか。




一円玉を取り出すと上に弾く。


キィーィン


綺麗な音が聞こえる。




“今、歴史が変わるかも“


“ゴクリ“




ズガーン




私の放ったレールガンがエリカさんを襲う魔物達をまとめて、一瞬で消滅させる。




”キタ――(゚∀゚)――!!”


”キタ――(゚∀゚)――!!”


”キタ――(゚∀゚)――!!”


”キタ――(゚∀゚)――!!”




そして思いっきり地面を蹴る。




“ちょ────速っ!“


”はっっっや!”


”やば!”


”砂埃すげえww”




走りながらレールガンを撃ちまくる。




「人に当たってしまうからレールガンでは限界がありますわ。各個撃破しかありませんの」




地を蹴り走り出し、途中で警察官達が苦戦している場面が目に入る。




「ここが破られたら大惨事になる」


「自衛隊が来るまで何とか持ちこたえるんだ!」


「失礼!」


バン、ドン、グシャ


「え? 今何が起きた?」




”えっ?なにこれw”


”早すぎてエグい!”


”ドローンが追いつかんw”


”もはや残像じゃね?”




次々と魔物を倒して回るが、きりがない。私は焦りを禁じ得ませんの。


何故、この世界の人は魔物に対して魔法もスキルも使わないのです?


時間にして、数十秒。百体以上の魔物を滅するが焼石に水だ。




「・・・すげえ」


「あの人誰?」


「何でダンジョン外で?」


「でも、助けてくれた」




”ふぁ!?”


”今通りすがりで魔物消し飛ばなかったか?”


”リーシェちゃんなら一人で収拾できるかも”


”すげえwww”


”つっっっよ!”


”リーシェちゃん最強じゃね?”


”待てよ!ダンジョン外でスキル使えるって”


“国が動くな“


“うむ。間違いなく“




視聴者がさらに増える。


 


”ハッシュタグランキング一位の初めて見たけど、すご”


”わい常れんやけどビビってるw”


”マジですげえ・・・”


“『アリス』リーシェ様! エリカさんの所まで戻って! 考えがあります“




アリスに何かアイデアがあるのですわね。私はアリスがいるエリカさんの元へ向かった。

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