第13話リーシェ、ギミックに挑戦する

ピンポン。


チャイムの音がする。


「はーい!」


アリスが直ぐに玄関に出る。


「アリスさん? どなたかいらっしゃったんですか?」


そう言って、アリスの後を追うキリカ。


私はアリス達に任せておこうと思ってましたわ。でも。


「これは勇者様!」


一瞬でピコピコと耳が動いて、ルームウェアから秒でおしゃれ普段着に着替えて玄関に向かいますわ。


「キリカ。悪いがお前をここで倒す!」


「な、何故転生勇者が私を?」


勇者が宝剣を抜いて、キリカが聖剣を手にしている。


「ちょー・・・と、待って下さりますの!」


間に入った私。グッジョブ! 私!




「そうか。キリカとは休戦になったのか?」


「はい。恩を受けた上、王からの命令はあくまで監視です」


「安心した。万が一があったら、俺はお前を許さない」


「何故です? 仮にも転生勇者のあなたが何故リーシェに肩入れするんですか?」


「・・・一目惚れした・・・からだ」


「はぁ?」


「だから、一目惚れしたって言っただろ!」


「そんな一目惚れだなんて、恥ずかしいですわ」


「お前もかい!? リーシェ!」




転生勇者のけいご様には経緯を説明しましたわ。




「そうか。俺も王国でキリカの異世界遠征の話を聞いて、慌てて魔王に会いに来たんだ」


「ですが、正気なのですか? けいご殿? あなたも勇者なら、わかるでしょう? 魔王が化け物だってこと位?」


化け物? 酷いですわ。いくら魔王になっちゃったからって化け物扱いなんて。でも、化物扱いだなんて失礼にも程がある。一体、何なのですの?


「それ以上言うと、いくらお前でもただではおかんぞ?」


「だから、勇者であるあなたがなんでこんな化物と仲良くしているのかって聞いてます?」


勇者は庇うような目で私を見ると、今度はキリカを氷のように冷えた目で見すえる。


「けいご殿、あなた、本気でどうしたんです? 頭でも打って、おかしくなったのですか?」


「それ以上余計なことを言うなら、例え、お前でも殺す」


そして、キリカは怯えたような顔で、もう一度私の頭の上からつま先まで確認すると、呆れたかのような表情で口を開きましたわ。


「魔王である以前にこの人は災厄級の化け物・・・にしか見えません」


「・・・魔王は、化け物じゃない」


勇者がはっきりと断言してくれたので、私はほっと胸をなでおろしたのですわ。


「けいご様、正気ですか? このレベルの気配を感知できないとか、勇者ならあり得ない!」


「・・・確かに魔王から謎の瘴気の気配はするが、魔王自体は化け物じゃない。俺が保証する」


「・・・え?」


・・・私から、瘴気の気配がする?


勇者を見ると、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていますわ。


「新しい聖女が誕生したら、魔王を見てもらう。お前は王命通り、監視だけしてくれ」


「・・・。私も恩義がある身、承知した」




「・・・魔王から瘴気の気配がすることには、初めて出会った時に気が付いた。話すべきかどうか悩んでいたんだ」


「瘴気って、一体どういう・・・?」


「俺も感じるだけで、詳しくはわからない。王国に新しい聖女が誕生したら、診てもらう約束を王としておいた。おそらく一両日中に聖女は誕生すると思う」


「聖女に・・・? ありがとう。勇者!」


「ああ。仮にも聖女に選ばれる女性の目は特別だから、俺より多くのことがわかると思う」


今の私が聖女に診てもらえるんて、勇者の力がなければ絶対に無理ですわ。


魔王になってしまった私と対局にいる人ですの。


しかし、私が過去六度の人生で分からなかった事に、関係があるようにも思えますわ。一方で、本当のことを知るのが怖いと思っている自分がいますわ。


「大丈夫だ、俺がついている」


「勇者、ありがとうですの」


初めて出会って、三日も経っていない勇者の言葉に、こんなにも信頼を得せてしまうのは何故ですの?


一目惚れ・・・だからに過ぎないのですの?


そう、思い迷う私の手を握ると、勇者は爽やかな笑顔を私に向けて。


「・・・今度こそ絶対に、君を守る」




自身から瘴気が漏れているという恐ろしい事実を知って三時間程後。


流石にショックを受けましたの。瘴気とは悪魔か悪神が放つと言われているもので、魔王とてそんなものをまとう程ではないですわ。




気を取り直して、六本木のダンジョンに向かった。


今日は予定を変更して三時から配信開始ですわ。


少し、気分転換しませんとですわ。




「い、異世界冒険隊で・痛ッ・」




”噛んだw”


”可愛いw”


”落ち着いてアリスちゃん”




「すみません。リーシェ様にMCを無理強いされたけど、慣れてなくて」




”大丈夫だよ”


”みんなアリスちゃんの味方w”




「・・・」


「・・・」




”・・・”


”・・・”


”まさかの無言配信w”


”普通なら地獄w”


”もう三十分以上、およそ十万人がこの無言配信見てると想像すると笑うしかないw”


”三回層のトラップをワザと踏んで最下層とかw”


”そこからの宝箱ギミックをワザと踏んで最深層とかw”


”最深層到達の記録はなかったよな?”


”歴史的偉業を無言で配信するのがリーシェちゃんスタイルw”


”あ!? これ、フロアボスの間じゃね?”




「フロアボスへの扉みたいです」


「何々。汝らの志を試すものなり?」




”おそらく条件付きの勝利条件だよ”


”渋谷ダンジョンの最下層のフロアボスがこのパターンだった”


”あれ、攻略に三か月かかったよな?”


”・・・敗れた探索者は数知れず”




「よし、行きますわ」


「そうですね」




”あれ、ちょっと? 碑文よく読まないの?”


”これだけの難易度を適当に挑むとかw”


”でも、流石に舐めすぎじゃ?”




「汝ら。友同士で殺しあえ。さすれば次の扉は開かれん?」


「どうやら、仲間同士で殺しあうのが勝利条件みたいですね」




そうですの? 簡単でよかったですわ。




「アリス。仕方ないのですわ」


「え? リーシェ様? なんで宝剣掲げてます?」


「だから仲間同士で殺しあうのですの」


「それを間に受けたら思うツボでしょ!」




”普通にアリスちゃんを殺しにかかるとかw”


”いや、流石に冗談だろ?”




「リーシェ様。私がいなくなったら、どうやって暮らすおつもりですか?」


「え? お家はあるし」


「家賃や電気代、ガス代、銀行とかの管理はどうされるおつもりですか?」


「え? いや、そのう」


「どうされる。お・つ・も・り・で・す・か?」




ゴゴゴゴゴゴゴッ




”まさかのクリアw”


”アリスちゃん賢いw”


”流石マジキチリーシェちゃんw”




気が付くと何故か次の扉が開いていましたわ。

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