第7話 エルフ、回想す


 ――女王。お言葉をください。


 思えば、いつからだったろうか。


 エルフの女王になって、幾星霜。


 我は種族の長として一族を導いてきた。


 類まれなる魔法の使い手にして、無限に等しい知識を持つ。


 唯一欠点を挙げるとするならば、可愛過ぎて舐められてしまう容姿くらいだろうか。


 自分が他より秀でている自覚はあったし、先代から女王に指名されたときも、当然じゃろうという感覚だった。


 ――女王。女王。女王。


 ひっきりなしに、一族の者が我の判断をあおぎにやってくる。


 悪い気はしなかった。


 聞く手間はあったが、頼られている感覚は、自らの有能性を知らしめてくれるようで、一種の陶酔を覚えた。


 右を向けと言えば全員が右を向き。


 祭りをしろと命じれば、その日の夜には厳かな櫓が建つ。


 全ては我の言う通りになった。

 

 全ては、我が言わねば変わらなくなった。


 トップダウン、というやつじゃな。


 別段、それが悪いとは思わぬ。


 種族の長とは、一族に進む方向を示す者である。


 故に、足並みを合わせるための統率力が求められる。


 指示をして、部下が動く。


 その繰り返し。


 当然だと思ってきた。


 しかし、これが一生続く。


 そう思った途端、我は言いようのない不安に襲われた。


 一族の長として、酒も、娯楽も、食事も。


 全部自制して、上に立つ者として相応しい振る舞いを意識した。


 まるで、あやつり人形のようじゃった。


 いつしか我は、願うようになった。


 ……こんな単調な生をかなぐり捨てて、何も考えず生きられないだろうか。


 果たして、願いは叶ったのか。


 ある日、儀礼となっておる泉への参拝を行うと、我の前に未知の世界が広がっていた。


 およそ何で構成されているかわからない、白く固い床。


 どのような原理で包装されておるのかわからぬ、飲食物の数々。


 そして、けたたましく鳴くパチンコという名の遊戯。


 ちょうどお人好しの男に拾われたので、しばらく生活を共にすることにした。


 一言で言えば、刺激的じゃった。


 食事は美味しいし、酒も格別。


 スマホという異次元の魔導具も手に入れた。


 何より、誰も我を仰ぎ見ず、気さくに接してくれた。


 我にとって、それが一番嬉しかった。


 ただ、先日、少しだけ気になることがあった。


 我と同じ一族を束ねし者――梨好瑠が、長の自覚に欠ける行為をしておった。


 業務上の負荷を一心に背負い、部下に小言を言われる。


 どちらも、先導者としては失格じゃ。


 セルフコントロールができねば、他人なぞ導けぬし、他者にあれこれ文句を言われていては、いざという時に説得力に欠ける。


 我は、梨好瑠は長失格ではなかろうかと思った。


 しかし、どうやらこの世界では、決してそういうわけでもないらしかった。


 この世界での我の保護者である連は、梨好瑠に一定の信頼を置いているようじゃった。


 そして、梨好瑠もまた、そんな連を信頼しているようじゃった。


 ……互いが、互いを思い合う。


 思い返せば我の行動は常に、一方通行だったように思う。


 頼られ、与えて。また頼られ、与えて。


 その時初めて、我は気づいた。


 ……ああ、そうか。我もこんな風に、誰かと共に事を為したかったのか。


 なんとなく、この世界に我がいざなわれた理由が、わかるような気がした。


 果たしてこの泡沫の夢みたいな時間がいつまで続くか、我にもわからぬ。


 願わくば終わるまでに、我にとっての理想のあり方を定めることができればよいなと、切に思う。


 とはいえ、正直それはついでじゃ。


 今の我は女王ではなく、異世界エルフ(パチ屋の店員)じゃから。


 最優先は、


「おーい、ラピス。明日新装だから打ちに行くか?」


「行くのじゃ! 先日仕事をサボった駄犬に説教をするのじゃ!!」


 この世界――日本に順応すること。


 我は連の誘いを受けて、明日のリベンジに燃える。


 待っておれ、三つ首の獣めが!


 次こそは五回吠えただけの定時退社など許さぬからな!


―――――――――――――――――――――――――――――――――



【あとがき】


 こんにちは、はじめまして。

 拙作をお読みくださりありがとうございます。


 毎日19時に1話更新していきます(短い場合は2話まとめて更新)。

 執筆自体は完了しており、全21話となっています。

 よろしければ最後までお付き合いくださいm(_ _)m



※※※フォロー、☆☆☆レビュー、コメントなどいただけると超絶嬉しいです※※※


 今回は短くて申し訳ありません……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る