第7話 サプライズ

 翌日、全員で買い物に出た。

 姉ちゃんはずっと、玩具の銃を握ったままだ。周囲を警戒しながら進む。

 一番大変そうなのはサチちゃん。

 ずっと眉間にシワを寄せている。魔物を常にサーチしながら歩いている。

 交番があった。

 休憩をする……ソノちゃん以外は。

 ソノちゃんはゾーンの能力を使った状態。慣れない場所では交番くらいのサイズがギリギリらしい。時間経過で少しずつ体力を消耗する。

 そして、お店に着いた。

 建物内は、ほとんど魔物が来ないという。

 それでも定期的にサチちゃんが力を使う。魔物が周囲にいないかサーチする。

(もしかして……)

 俺が一番楽なのではないだろうか?

 中野家の中と外で、余りにも違うのを目の当たりにした。

 その日から、姉ちゃんたちの指示に文句を言うのをやめた。言われるままに能力を使った。

 そして数日が過ぎた。

 ソノちゃんが、泣いている。

 あの冷静なソノちゃんが、号泣している。

 彼女の家の中、冷蔵庫の前、開けっ放しの冷蔵庫の中を見て号泣している。

 冷蔵庫は、何日か前に俺が使用可能にした。

 その時から、ここ異世界の冷蔵庫と、元の中野家(ソノちゃん家)の冷蔵庫がリンクした。

 中の食材は、俺のリ・ニューの力を使わなくても新鮮。そのまま飲食できた。

 法則も分かってきた。食べた食材は当たり前だが消える。しかし、数日後に復活、この数日にムラがあって法則性が分かった。

 こちらで消費しても、元の世界では消えていない。だから元の世界で消費(ソノちゃんの両親が食べ切ったり)すると、買い足され、こっちに新しいものが現れる仕組みだ。

 泣きながら、ソノちゃんがみんなの座るテーブルに運んだモノ、

 バースデーケーキだった。

 明日がソノちゃんの誕生日。

 両親が用意してくれたモノだ。

「明日食べなくていいの?」

 嬉し涙のソノちゃんに聞くと、

「明日は多分、朝からテーブルに飾られる。」

 母親ならきっとそうすると、ソノちゃんは言う。

 娘がいつ返って来てもいいように、前日に購入し、朝から飾って祝って待つ母親だと言う。

 冷蔵庫の外に出されたら、こちらの冷蔵庫から消えてしまう。

「だから今日、食べよう。」

 1日早い、ソノちゃんの誕生パーティが開かれた。

 ケーキだけでは終わらなかった。

「プレゼントに、コイツとの入浴権利を与えます!」

 コイツとは俺だ。

 姉ちゃんの悪ふざけ。

 ……のはずだったが、

 ソノちゃんは姉ちゃんの悪ふざけが大好きだった。

 ソノちゃんと姉ちゃんと俺、3人で入浴することになった。

 もちろん……俺は目隠しされた。

 腰にタオルを巻く権利は何とか勝ち取った。

 姉ちゃんたちは全裸だと言ってたが、本当かどうかは俺には見えない。

 お風呂は大きくはない。

 キャッキャと騒ぐ、幼稚園からの腐れ縁の2人。全く見えない俺、嬉しくはないが……まあ少しは興奮した。

 もう1人入って来た。

 なんと、大人しいサチちゃんの声だ。

 でも入れ替わりで、俺と姉ちゃんは退場。普通の家庭の風呂、4人は無理だ。

 着替えを持って、目隠しのまま、姉ちゃんに手を引かれて脱衣所から出た。居間で着替えさせられた。

「もう目隠しいいよ。」

 姉ちゃんが下着を付け終わり、俺の視界は戻った。

 下着姿の姉ちゃんが、パジャマ代わりのジャージに着替えている。

 まあ、風呂上がりに、下着姿でたまにウロウロしている。恥ずかしくはないのだろう。

 俺も着替え終わると、

「よし、行くぞ!」

 また手を引かれ、別の場所へ連れて行かれた。


 翌朝、

「ハッピーィ」

「バースデー!!」

 中野家のガレージで、ソノちゃんに誕生日プレゼントのサプライズ。

 中野家の車。

 使える状態まで、昨晩の入浴後、俺が能力で再生した。

 俺の興奮エネルギーを蓄えるための混浴。サチちゃんがソノちゃんを風呂に引き付けてる間に、俺と姉ちゃんとヒナタさんで車を使えるようにした。

 ヒナタさんが車の方担当だったのは、

「さあ、行きたい所はどこ?」

 運転席で張り切るヒナタさん。

 彼女は運転方法を知っている。父親とよく出かけ色んな経験をしている彼女。リアルな運転シミュレータを何度も経験し、自称「運転免許を一発合格する自信あり」。高校3年、今年18歳になる。

 現実ではNGだけど、

 この異世界には人がいない。

 対向車も走っていない。

 そもそも、日本の法律が適用されない。

 サバイバルの、行動範囲が広まった。

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