第32話 もう1つの風林火山

 幻影に戻った黄龍が、楯無管理官の元へ、体内へと返って行く。

「最後の『奥の手』のために、黄龍の力を残しておいたのさ!」

 その言葉を待っていたかのように、

 満月を隠していた雲が晴れた。

 すると、

 月明かりが、また1点へと集まっていく。

 改修で増設された鏡を散りばめたポール、午後11時に集まるように計算されていたポール。満月の位置はもうズレている……なのに、

 また、楯無キドラへと光が集まる。

 飛び去ったカラスに魔力を込めたと言っていた。暗示をかけていたのだ。ポールをかすめたのは偶然ではない。角度が微妙にズレたのだ。

「風林火山の『風』!」

❝バカな……同じ召喚を二度行えるものか!❞

 四聖獣を召喚したばかりだ。もうそんな余力は無いはずだ。さらに言うならば、そんな余力があるなら、1度目にもっと力を込められたはずだ。

 風林火山の風、楯無キドラが指すのは、

 左隣、彼女の真西に立つ女性。

(さっきとは違う?!)

 悪魔カオスが訝しむ、順番は違うが、立っている人間は同じ。召喚後の残りカスで何ができるのか?

「タツマキは竜巻、その象徴は『風』!」

「ラ〜♪ファ〜♪」

 多妻木アサヒが歌いだした。

「風林火山の『林』!」

 指し示すのは右隣、管理官から真東、

「湖西のコは林の中の湖、その象徴は『水』!」

「我が武に利あり!」

 湖西マシロが構えを取った。

「風林火山の『火』!」

 指し示すのは後ろ、管理官から真南、

「香取は火鳥(かとり)、その象徴は『火』!」

「御火(ミカ)!」

 香取ミナミが気合を入れた。

「風林火山の『山』!」

 楯無キドラが前方、真北を指す。

「楯無 龍亀(りょうき)!守護は『玄武』!

 技は『山』!その象徴は『土、大地』!」

「得!利!(う!り!)」

 楯無リョウキも、精神を集中させた。

「今、この4人の守護者に、我が守護『黄龍』の力と共に、我が尊厳『4L』を託す!」

 分からない……

 何をしているのかが理解出来ない。

 デタラメに思える光景だが、最中なので、悪魔カオスは動けない。

 そう、これは『召喚』の儀式だ。

 楯無キドラから、四方の4人へと力が渡される。

「ラ〜♪ファ〜♪」

「我が武に利あり!」

「御火(ミカ)!」

「得!利!(う!り!)」

 再び唱える4人の守護者。

 すると?!

 4人の背中に、羽のような光が見えてきた。

❝何?!❞

『ラ♪ファ♪』

『我・武・利!』

『ミカ!』

『う!り!』

 そこへ、さらに楯無キドラの4Lが加わる。

『ラ・ファ + L』

『ガ・ブ・リ + L』

『ミカ + L』

『ウ・リ + L』

 光の羽が具現化し、

 4人の守護者の姿が消えた。

(これは、まさか?!)

 悪魔カオスが気づいた時、

 4人の守護者は、議員の心臓が祀られた祭壇に、東西南北のそれぞれに、

 天使の翼を輝かせて立っていた。

「東の守護、『ラファエル』!」

「西の守護、『ガブリエル』!」

「南の守護、『ミカエル』!」

「北の守護、『ウリエル』!」

 最高位の天使、四大天使が光臨した。

❝ありえん……

 こんなめちゃくちゃな召喚が……?!❞

「めちゃくちゃ(カオス)を認めたのはお前だ。」

 4Lを渡してもなお、強気の楯無キドラ。

 カオスという名を認めたことで、カオス(めちゃくちゃ)な召喚の確率を上げた。

 悪魔をも欺く女。

 「言っただろう カオスで終わるのは、お前の方だと!」

 召喚が完成した。

 同時に逃げだそうとする悪魔。

 黄龍との戦いで、まんまとグラウンドの中央、四大天使の真ん中に誘い込まれていた。

 四大天使の結界が、悪魔の逃亡を許さない。

 そして、

 四大天使それぞれが放った、雷撃のような光が悪魔を襲う。

 撃つ!撃つ!撃つ!撃つ!

 その天罰のような雷によって、

 悪魔カオスがどんどん干乾びていく。

❝お、おのれーっ……人間……!!❞

 断末魔を残し、悪魔は消滅した。

「分からん奴だ……人々だと言ったろう。」

 終わった……

 やっと喜びを見せた、管理官であった。

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