第14話 エースたち

 多妻木アサヒが本陣(仮設テーブルと椅子とモニター機材)から離れてすぐ、敵の総大将、最高幹部『ボーグ』が迫って来るのが見えた。

 女剣士、湖西マシロが立ち塞がる。

 ボーグが異能力で変身した。3m近い怪物へと変貌した。

 色は黒に近い。戦闘機が可変して人型になったような巨大魔獣。鉄板のような皮膚、パワーのありそうな巨体。だからボーグ、サイボーグの『ボーグ』。

 所々が、今まで遭遇した変身異能力の魔獣フォルムと似ている。

(もしかすると……?)

 今まで倒した中に、コイツのコピーが何体かいたのか?……管理官は考えていた。

(無から異能力者を造るのではなく、DNAか何かを素に、クサカは異能力者を造っている?)

 完全にコピーできるのでなく、一部を受け継ぐ?

 そこから想像すると、

 マシロが斬りかかった。

 マシロの剣撃を素手で、ロボットのようなアームで受け、そこから起こる斬撃を、

 直接ボディに食らったのに、平然としている。

 まさにサイボーグのような『ボーグ』だ。

 一方の、多妻木アサヒが向かったのは、前線の、SITが奮闘している地点。

「ラ〜♪ファ〜♪」

 なんと、その中心で歌い出した。

 ミュージカルのように、ちょっと踊りのような動きをしながら、

「ララララ〜ファ〜♪」

 楽しそうに歌っている。

 青緑の布がヒラヒラとなびく。彼女のドレスのような戦闘服が、一層ミュージカルかオペラの衣装のように見えてくる。

 SIT隊員に元気が溢れてくる。

 傷やダメージを受けた隊員にも力がみなぎる。

 これが、多妻木アサヒの異能力(トリック)。

 『癒し』。彼女が歌い出だすと、周りの空気がそよ風のように心地よく感じられ、風を受けた人々は元気になり、治癒されていく。

 そして驚くことに、

 歌わなくても、踊らなくても使える力。

 だが、彼女は歌い続ける。

「ラ〜♪ファ〜♪」

 戦場には場違いな彼女。しかし効果はテキメン。

「マシロ!ミナミと交代だ!」

 総大将ボーグに、剣撃と斬撃を防がれたのを見て、管理官が即座に指示を出した。

「はい!」

 まだ一太刀だけだったが、管理官を信頼する女剣士は、迷わず香取ミナミのいる中央へと走って行った。

「いいのか?護衛を外しちまって!」

 座っている楯無管理官を殴りに突っ込んでくるボーグ!

 見えない壁、楯無キドラの『山』がそれを通さない。

「お前こそいいのか?指示が聞こえていたのに、背中を向けたままで。」

 絶対に結界を破られない自信があるのか、座ったまま微動だにしない管理官。

 ボーグの背中が燃えた。

「ミナミと交代だ!」その指示通り、香取ミナミが背後に来ていた。

「もう1人の炎使いか?!」

 振り返るボーグ、ダメージと痛みは感じたが、動けないほどでは無かった。

「御火(ミカ)!!」

 香取ミナミが、異能力の名を叫ぶと、

「グオオオッ!!」

 背中に受けたのとは段違いの炎に包まれた。

 エースの1人、香取ミナミの本気の炎は凄かった。

 ひざまずくボーグ、炎は消えたが、かなりのダメージだ。

 小さな錠剤のようなモノを取り出した。

「やめておけ。」

 楯無管理官には、それが何か想像がついた。

「マシロを向こうに行かせたのは、お前たちの為でもある。」

 前線のマシロ、峰打ちで次々と倒している。

 香取ミナミの炎は殺傷力が高すぎる。湖西マシロなら、命を奪わず戦える。

 その意は理解したボーグであったが、

 錠剤をじっと見て迷っている。

 迷う理由は3つ。

 ①このまま完敗で終わるのか……

 ②「この錠剤は、強化されますが、廃人になる恐れがあります。」

 ③そう言って渡した相手が、あの裏切り者

 ……しかし、

 リーダーとしてか、強い(はずの)異能力者としてのプライドか、

 ボーグは錠剤を飲み込んだ。

 体が……更に一回り大きくなり、ドス黒い色へと変わっていく。

「御火(ミカ)!!」

 躊躇なく力を使ったミナミだったが、

「『炎』耐性は、完璧になります。」裏切り者の言葉は真実だった。炎が効かない魔人ボーグと変身した。

「ミナミ!マシロと交代だ!」

 さっきと真逆の指示を出した。

 指示を受けたミナミが走り出す。

「また剣士か?人手不足は本当らしいな。」

 笑い出したボーグを見て、

 楯無キドラも笑い出した。

(クサカの分析、教えてくれてありがとうよ。)

 口が軽い。考えも浅い。だからクサカに切り捨てられたのだと確信した。

 湖西マシロが戻ってきた。

 しかし……剣撃も斬撃も通じなかった相手だ。

「行けるか?」

「はい!」

 管理官の問いに力強く答え、女剣士が巨体に斬りかかった。

「学習しない奴めっ!!」

 さっきの一太刀と同じ攻撃が来た。

 それをアームで受け、発生する斬撃を、

 いや?

 アームが切断された?!

 そのまま剣撃がボディに迫る!

 斬撃が全く効かなかったはずのボディを、

 そのまま一刀両断、敵総大将を真っ二つにし、女剣士は華麗に着地した。

「『剣撃』で斬れぬなら、『斬撃』で斬り、

 『斬撃』で斬れぬなら、斬撃をまとった『剣撃』で斬る!」

 響きを立てて、総大将の残骸が地面に崩れた。

「我が武に利あり!」

 エースの決めゼリフが決まった。


 副将の女が、それを見ていた。

 まさかの総大将の敗北に驚いている。

 が、すぐに気を取り直し、

「管理官の弟よ!あの男を殺せば、こちらの勝利……」

 速かった。

 最後の「……よ!」が言えないほどに、速かった。

「ああっ?!何だって?!」

 上から降ってきた女に、

 今の今まで座っていたはずの女に、

 彼女の逆鱗に触れてしまった女は、

 透明の壁でコーティングされた一撃によって、跡形もなく潰された。


 ……敵の戦意は喪失し、大乱戦は終わった。

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