第13話 乱戦、開始

 大爆音と共に、屋敷に火の手が上がった。

「何事だ?!」

 混乱するムクロ団(仮)。無人の場所から火の手が上がり、炎はどんどん燃え広がる。

(火事なんかで死なないで下さいよ。1人でも多く健闘して下さい。)

 傍観者のクサカが願う。


「何人出て来た?」

 楯無管理官が尋ねる。

 火事で屋敷から出て来た敵と、爆発音で突入した味方、広大な屋敷の庭で、正面衝突の形になった。

「……232人です。」

 わずかな時間で数えたのは秘書官の須山モトカ、『完全記憶能力』の持ち主。上空に飛ばした偵察ドローンからの映像を見て、すぐに算出した。敵全部が映った瞬間を記憶し、全員を数えたのだ。

 そのドローンはすぐに、敵の異能力で撃ち落とされた。

 そこはもう、管理官は気にしていない。

 味方は警視庁のSITが30人、警察庁からは20人(ほぼ若い女性)。

「全員、燃やすか?」

「……それは最後の手段にしましょう。」

 いつもなら諫める立場の秘書官が、否定をして来なかった。

 敵は全員おそらく異能力者(トリッカー)。味方の異能力者数は……

 味方からの銃声が聞こえた。

 先陣は何と、

「きゃ~♡ リョウきゅん♡ス・テ・キ♡」

 楯無良器刑事が駆け出しながら、次々と発砲している。

 それをカシャカシャ、スマホで撮影している姉。椅子に座り、前にはテーブルが設置されている。

「望遠って、どうやるの?」

「ここをですね……」

 管理官と秘書官の会話、さっきまでの緊迫感はどこへやら。

「あの男……こうも厄介だったとは……」

 離れた場所、屋内で傍観していた焚き付けた本人、ムクロ団のクサカが唇を噛んだ。

 異能力『直感』。

 楯無刑事は、庭に隠して設置してある、監視カメラを次々撃ち抜いて破壊していた。

 100m以上離れたカメラにも命中させている。

「全部壊されてしまうぞ!!」

 大モニターの画面に20の現場映像が映っていたのだが、もう半分以下になってしまった。ムクロ団の幹部が集結している部屋、気楽な鑑賞会の予定が怪しくなる。

 しかし、

 誰も仲間は殺られていないが、先に発砲された事で、血の気の多い幹部の1人が猛然と突っ込んで来た。

「よし、行け!外道!」

 元・味方を応援する流れになったムクロ団鑑賞会。

「通称『外道』、何人も殺している手配犯です」

 突っ込んでくる男を秘書官が認識した。

「私が行きます!」

 両手に日本刀、二刀流の『外道』に対するは、

 外道より速い!

 誰も斬られる前に倒す!と決めて敵へと向かう、全身白装束の女侍、

「アイツは終わったな。」

「はい、一撃でしょう。」

 チームのエースの1人、女剣士『湖西 マシロ』!

 抜刀したマシロ、

 外道へ斬りかかる!

 二刀流で防ぐ外道!

 マシロの剣撃を受け止めた!

「超強ええ剣士ってのは貴様か?」

 受け切った余裕、そして好敵手と出会えた喜び、

 その高揚を感じつつ、

 外道は真っ二つになって果てた。

「『剣撃』で斬れぬなら、『斬撃』で斬る!」

 マシロの能力は『斬撃剣』。

 鋭い剣撃を受け切っても、その剣撃から発生する斬撃、鋭い真空の刃は防げなかった。

「我が武に利あり!」

 決めの台詞だ。

「マシロちゃん、素敵〜♡」

 管理官の隣で、ちょっとドレスに似た戦闘服の女性が声援を上げた。

 右手にティーポット、左手にはソーサー付きのティーカップ。

 淹れたての紅茶をティーカップへと注ぐ。

 ティーポットを徐々に上げつつ、40cm以上離した辺りから、紅茶を跳ねこぼしながら入れる。

「アサヒ!こぼしてるぞ!」

 管理官に怒られても動じない、管理官とほぼ同年齢?の青緑のドレス風戦闘服を着た女性。

 フェロモン全開の美人。管理官曰く「リョウきゅん♡に近づけたくない女、第一位」

「特命係なら、紅茶はこうやって入れないと」

 全く管理官を怖がらない女性メンバー、

 『多妻木(たつまき) アサヒ』。

 あまり呼びたくないのだが、今日は彼女の異能力(トリック)が必要不可欠。

「SITの方たち、あんなに前線でいいの?」

 冷静で、分析力、判断力も高い。

 管理官以外のメンバーは、多妻木アサヒを副管理官だと思っている。

「彼らにも、実戦経験を積ませたい。」

 異能力者(トリッカー)相手の出動が、この先増えると考えている。そして、SIT自身の要望でもある。彼らのプライドが望んでいる。

「私が欠けた場合の準備もしておく必要がある。」

 珍しく弱気、本音を見せる楯無キドラ。

 前線から悲鳴が次々聞こえてくる。

「派手に暴れているわね、ミナミちゃん♡」

 SITのわりと近くで、火柱が次々に上がっている。

 『香取 ミナミ』。警察病院へ管理官の護衛兼運転手として同行していた女性だ。

 そう、彼女がもう1人の炎使い。

「あれは控え目だ。ミナミが暴れたらあんなモンじゃない。」

 警察の制服に、肩までかかる、ウェーブの黒髪、キツめの美人顔。そして、キツめの性格。

「御火(ミカ)!」

 敵幹部の1人を一瞬で焼いた。

 今叫んだのが、彼女の異能力(トリック)の名前。

 『御火(ミカ)』。強力な炎を操る異能力。

「ミナミとマシロはこの先も残したい。」

 また管理官の本音が漏れる。

「……ついでにお前もな、アサヒ。

 リョウきゅん♡をずっと護ってもらう。」

 日本をでも国民をでも平和をでも無かったが、

「私はダメよ。」

 多妻木アサヒが微笑む。

「貴方が敗れたとしたら、隣の私も生きていないわ。」

「ふん……誰が敗れるものか。そのために、どれだけ準備をしていると思っている!」

「フフフ、私もちょっと、参戦してくるわね。」

 アサヒが管理官の側を離れた。

「四天王として、いいとこ見せておかないとね」

 振り向いて笑う。「四天王」などと決めたことは一度もないのだが。

「こっちに変なの来ちゃってるし、」

 イタズラっぽく笑い、多妻木アサヒは前線へと向かった。

 入れ代わるかのように、

 変なの……敵の総大将が本陣へと迫って来た。

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