第2話 トリックバトル

 超能力、魔術、体術強化、変身、超感覚、召喚術……これら全てを『異能力(トリック)』と呼ぶ。


 強盗犯の1人、3mの巨大ゴリラに姿を変えた男は『変身』の異能力(トリック)使い。

 力任せに楯無刑事を襲う!

 マシンガンでも壊れない強化アクリル板を粉々にしたのも、この男の異能力だ。

 超怪力のゴリラアームの連打!

 ……が?!

(この異能力は見ていた!)

 強盗実行の直前から、気配を消す異能力で楯無刑事は現場にいたのだ。

 物凄い音が何度も響く。

 ゴリラアームと何かが何度もぶつかる音。

 だが、その何かが盾となり、楯無刑事に攻撃は当たっていない。

「何だコイツ?!何の異能力(トリック)だ?!」

 ゴリラが攻撃を止めた。

 見えない壁がある。ゴリラアームでも破壊できないということは、

 ガガガガガガッ!!!

 ………

 犯人の1人がマシンガンを乱射した。

 が、やはり壊れない。奥へは届かない。

「そんなスゴい盾があるのにタテナシ?嘘つきだね、楯無刑事。」

 乱射した男が笑った。

 いや、覆面をしているので笑ったかは見えていない。

 笑い顔のピエロの覆面だからそう見える。

「とっととズラかっちまおうぜ!」

 4億の半分、2億入りのスポーツバッグを持ったチーターの覆面が仲間に言うが、

「いや、まだ『依頼』をこなしていない。」

 もう一方の2億入りバッグを持っていたライオンの覆面の男が、バッグを床に置くと、ゆっくりと楯無刑事へと近づいていった。

 ここからは未知、

 ゴリラの異能力(トリック)しか見ていない。

 だから、犯人達に金を持って逃げるように、最初の駆け引きで言った。人質の安全にはそれが最善策と見たのだ。

 チーターの覆面の方が先に見せた。

 瞬時に出入口付近へと移動した。

(高速移動の異能力?!)

「早く逃げようぜ!」

 出入口手前で叫ぶチーターの覆面、

「今、出てったら、テメエの取り分は無えぞ!」

 ピエロが怒鳴った。コイツがリーダー格のようだ。

 その間にライオンの覆面男が楯無刑事にさらに接近、見えない壁のギリギリに立つと、

 ?!

 ……油断した。

 人質の前から動けないとはいえ、

 ゴリラがパワー、チーターが瞬速、

 ……ならライオンは??

 ……と考えている間に、

 ライオン覆面の吐いたガスを吸い込んでしまった……

(これ……は……)

 意識が遠のく……

 その場に、楯無刑事はゆっくりと倒れ込んでしまった……

 眠りガスだった。

「よくやった!ライオン!チーター!」

 ピエロは逃げ出そうとしたチーターも褒めた。

 トリック(誘導)だった。

 注意を逸らす役目と、マスクに合った異能力だと錯覚させる役目、チーターの逃げ出す素振りはフェイクだった。

 再び、恐怖が増していく人質の若い女性4人。

 しかし、

 見えない壁はまだ消えて無かった。

「コイツの能力じゃねえのか?この壁?!」

 前に進もうとして壁に阻まれるライオンとゴリラ。倒れて意識のない楯無刑事にさえ届かない。

 その時、

 楯無刑事の胸元が光り、

「何だ?!」

 内ポケットのスマホが勝手に床に落ち、

 画面から光が伸びて、逆スポットライトのように上を照らすと、

❝今すぐ出頭しろ、このチンピラども!!❞

 空中に映像が映り、怒鳴り声とともに、制服姿の女性警察官が現れた。

 見るからに好戦的な30歳手前の美人。

「いや、30歳越えてるだろ?」などとうっかり口にした者は、何故かすぐに遠方への転勤が決まり、彼女の周囲からいなくなる、30歳手前の美人。

「何者だ?!」

❝警察庁特命係の松下左京と、その相棒の鶴山薫子だ。❞

 ……

 本人は座った姿勢の上半身、胸から上の固定映像。そして右隣に時々、手の先がチラチラ映る、これが相棒らしい。隣に立っているようだ。

「……偽名だろ」

❝ツッコミが遅い!!❞

 と、身勝手に怒鳴ってから、

❝名乗らない貴様らに、何でこっちが名乗る必要がある?❞

 画面越しに睨んでくる。

「……知ってますよ。」

 と、ピエロ覆面。

「警察庁の『楯無キドラ(たてなし きどら)』管理官ですよね?」

 ピエロの覆面がまた、笑ったように見えた。

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