裏ボス転生してレベル10000になった俺を倒せば異世界転移したクラスメイト達が帰れる件

佐藤アスタ

エピローグ


 異世界ファンタジーと言えば、剣と魔法の心躍る冒険――みたいなのが一部世間じゃ流行ってるらしい。

 聖剣とか魔剣とかでバッタバッタと斬り伏せ、炎や氷を自在に操って敵を倒す。

 まあ、そのワクワクを共感できないといったらウソになる。


 ただ、神様は不公平なもので、あるいは公平なもので、こっちの願望なんか知ったこっちゃないらしい。

 異世界ファンタジーさせてくれるとは限らないし、全員を同じ勢力に配置してくれるとも決まってない。

 ただ、前世で神殺しでもやらかしたレベルのヘイトを俺一人に集中させるのは勘弁してほしい。


 ましてや、裏ボスなんて役回りは、神様に嫌われてるとしか思えなかったり、思えなくもなくなくなかったり。



 ~~~



 青い肌、額の角、中肉中背から細マッチョになった体。

 転生後の総合的なビジュアルはプラスと言えるが、直視しないとならないデメリットがある。

 クラスメイトからの敵意だ。


「うわあああっ!!」


「そんな、私達の神聖結界が!?」


「魔王の極大魔法も凌ぎぎった、俺達の切り札だぞ!! それが、こんなあっさり――あり得ねえ!!」


 ここは俺の家。いや、巣か?

 一年中雪に閉ざされた極寒の山の狭間にある、ちょっと広めな洞窟を改装したプライベートスペースだ。


「ふざけるな! こんな魔境に隠れやがって! 俺達がどれだけ探したと思ってる!?」


「このダンジョンだってそうよ! 魔王城は余裕でクリアできたのに、ここまでに半分が脱落したのよ!」


 全部で十五人いる、いわゆる勇者パーティ。

 全員がいかにもな格好をしているが、毎日教室で見た顔ばかりという点がいまいち雰囲気が出ない。


「お前こそモブ代表みたいなツラしてるくせに、その強さは反則だろ!!」


「なんで魔族の方がチートガン積みなんだよ、シネ!」


 敵の八つ当たりと逆恨みがひどいが、気持ちはわかる。

 いきなり異世界に放り込まれて、魔王と戦うように強制されて、殺したくもない魔物を殺させられて、ちょっと肌の色とかが違うだけの魔族と戦うことになって。

 わかる、わかるよ。俺も同じような境遇だから。

 でも、だからってクラスメイトを殺すのはナシじゃないか?


「うるさい魔族!よりにもよってササキとそっくりな顔しやがって、許さねえ!」


 パーティの先頭で叫ぶのは、刃が輝く剣をもったイケメン。

 名前はコウタ。元の世界でもクラス中から人気を集めていた。


「ねえ、ササキ君ってあんな顔だったっけ……?」


「さあ? なんかいっつも影薄かったから。まあ、コウタ君が言ってるからそうなんじゃないの?」


「つうか、ササキって誰よ?」


 悲しいコメントをありがとう、クラスメイト達よ。

 ついでに、ひっそりと引きこもってた俺を殺そうとしている理由も、うっかり漏らしてくれたり……

 まあ無理だよな。


「裏ボスのてめえさえ殺せば、俺達が元の世界に帰れるアーティファクトがゲットできるんだよ!! さっさとくたばりやがれえええ!!」


 ……ああそう、そういうことね。そういうこと言っちゃうんだ。


 確かに、みんなが帰る手段を俺が握ってることを、俺は知ってる。

 細かい経緯は省くとして、全ての敵キャラに共通するシステム、ドロップアイテムが、俺の場合は少し特殊らしい。

 魔王を倒すためにこの世界に召喚された勇者たちが、トゥルーエンドを迎えるためのキーアイテム。

 その入手を邪魔するのは、裏ボスの役割ってことらしい。


 だからって、あいつらの態度悪すぎじゃね?


「星導魔法、『サザンクロスレイン』」


「うわあああああっ!?」 「きゃああああああっ!!」


 洞窟内に現れたのは、空間を歪曲して降り注ぐ流星群。

 戦闘フィールド内の全ての敵を対象とした、体力と魔力を強制的に九割削る魔法。

 ゲーム用語でいうところの、初見殺しってやつだ。

 解決策としては、回復アイテムの使用一択なんだが――


「うぐううううううっ!!」


「コウタ君、ハイポーションを!!」


「おっと、妨害フィールド『アイテム譲渡禁止』」


 かざした俺の手を中心として、赤い波動が洞窟の中に広がる。

 その途端、コウタに液体が入った瓶を渡そうとした少女、チカの手が止まった。


「チカ、早くハイポーションをくれ!」


「手が、手が動かないのよ!?」


「てめえササキ、なにをしやがった!」


 なにと言われてもな。


 裏ボスである俺には、戦闘中に必ず使用しなければならない特定の魔法やスキルが存在する。

 その一つが、永続フィールドである『アイテム譲渡禁止』。

 簡単に言うと、ポーターなんかのアイテムの運搬と管理を一手に引き受けるようなやり方を許さない。

 自前で持っていればそこまでの問題じゃないんだが、コウタのやつは当然の用心を怠ったらしい。


 それにしても、ああいう関係はよくないな。


「このクズが、肝心な時に使えねえお荷物なんか連れてくるんじゃなかったぜ!」


「そうよ、戦うのが怖い、魔法も使えないチカに、ほかにできることなんかないんだから!」


「ミユキの言う通りよ、コウタ君に謝りなさいよ!」


「ご、ごめ、なさ……」


 大人しい性格のチカは、コウタといじめ仲間たちに反論できない。

 なら、代わりに誰かが言ってやらないとな。


「そういうノリ、嫌いだな」


「あだあっ!?」


「ミユキ!?」


 腹が立った元凶、ギャル魔導士といった格好のミユキのところに転移魔法で近づき、デコピン。

 当てた中指には複数のバッドステータスを引き起こす魔法を込めていたので、しばらく起き上がれないだろう。

 毒、マヒ、倦怠感、肌荒れ、爪割れ、枝毛、便秘に陥るくらいだ。

 なに、死にはしない。


「この、ササキのくせに……!!」


 仲間がやられてキレたのか、体力魔力が一割なままのコウタが剣を振りかざして襲い掛かってくる。


 ま、貴重そうな剣を折るのはは勘弁してやるか。


「おあたたたたたたたたたた」


「がはあああっ!?」


「コウタ!」 「いやあああああ!」


 きっちり十連発。

 残り一割の体力を削り切らないように、抜かりなく手抜かりした俺の百裂拳が、コウタの体を吹っ飛ばした。


「てめえ、今死んだぞ!!」


「コウタの仇だ」


「おっと、やる気がみなぎってるとこ悪いが、残念、時間切れだ。終末魔法『ダークマターエンド』」


「な、なによあれ!?」


「に、逃げろおおおおおお!」


 一定時間、俺への攻撃がなかった時に自動発動する強制終了攻撃。

 洞窟内にブラックホール的なものが出現し、俺以外の生物を吸引、圧死させる。

 生き残るには、俺に一太刀浴びせるか、洞窟から脱出すること。

 魔法の障壁で踏み止まることもできなくはないが、魔力切れまでの苦し紛れにしかならない。

 まあ、初見で倒せるほど裏ボスは甘くないってことだ。


「クソ、ふざけた魔法ばっか使いやがって……!!」


 そんな、クラスメイト達が次々ブラックホールに吸い込まれる中、剣を地面に突き刺して、たった一人で頑張ってる勇者がいた。

 言うまでもなく、コウタだ。


「だが、これでお前のやり口は分かったからな! 次は絶対にぶっ殺してやる!」


「ご自由に。ダメージを与えられるようになるまで、レベル上げ頑張るんだな。もっとも、お前の全盛期があと百年続けば、だけど」


「ひゃ、百年? お前、なに言って――」


「お前たちの平均レベル、だいたい50くらいだろ」


「な、なんでそれを……!?」


「裏ボスアイで鑑定した」


「ふざけんな!!」


「でも、お前たちの方は鑑定できなかっただろ。それは、俺とのレベル差が離れすぎてるからだ」


「じゃ、じゃあ、お前のレベルはいくつだって言うんだよ!?」


「10000」


「……は?」


「だから、10000。まあ、平均レベル5000くらいまで行けば、俺とまともな勝負になるんじゃないか、知らんけど」


「そ、そんなわけあるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」


 絶叫するコウタの声が小さくなっていったのは、シンプルに距離が遠くなったから。

 ブラックホールの中に吸い込まれて、今頃は人族の王都の教会で復活してる頃だろう。

 ただし、


「剣、忘れていったな」


 握力が尽きて消えていったコウタの、置き土産。

 輝く刃と大小の宝石がはめ込まれた柄を見ていると、頭の中に覚えのない知識が流れ込んできて、人族の至宝である聖剣の一振りだと教えてくれた。


 レベル上げ、あと十年追加だな。



 ~~~



 超絶感じの悪い勇者一行に言わなかった秘密が、もう一つある。

 視界にあるのは、見慣れ過ぎるくらいに見てきた故郷の光景と、目を覚ました地味系女子の姿。

「あ、あれ? ここは……?」


「元の世界だよ。見ればわかるだろうけど」


「きゃあっ!? も、もしかして、ササキ君……?」


「正解。っていうか、今は人間の姿なんだから、疑問形にする必要はないと思うんだけど」


 ブラックホールに吸い込まれる前に保護した、ちょっと失礼なチカは置いといて、元の世界用に魔法でカムフラージュした俺は考える。

 確かに、俺を倒せば元の世界に帰れるアーティファクトが手に入ると、コウタ達には言った。

 言ってないのは、アーティファクトを持っている俺が、いつでも元の世界に帰れること。

 そして、任意の同行者も一緒に帰れること。


「で、どうする? このまま家に帰ることもできるけど」


「ちょ、ちょっと待って。一度に色々なことが起こりすぎて、どうしていいのか……」


「だよね。コウタたちのところから誘拐するようなことしておいてなんだけど、すぐに家に帰るのはお勧めしないかな。一人で帰ったら、絶対に大騒ぎになるよ」


「そ、そっか。お父さんと母さんには会いたいけど、警察やマスコミが押し掛けるのも大変だし」


「まあ、心の準備が整うまで、うちにいるといいよ。コウタたちのところに帰りたいなら別だけど」


「そんなことはないけど……う、うち?」


「あの洞窟、そこそこ住環境が整ってるから。もちろん、部屋は別だよ」


「う、うん。でも、どうして……?」


「どうして、チカだけを助けたのかって?」


「同情で助けたなんて言わないよね」


「同情だよ」


「え?」


「同情してほしかったんだよ。一人孤独に裏ボスやってるのは、ちょっと寂しいからね。共犯者が欲しかった」


「きょ、共犯者!?」


 驚くチカに、俺は言う。


「だいじょうぶ。チカには短期集中レベル上げコースに入会してもらうから。まずは、コウタたちをソロで全滅させるのが目標かな」


「ぜ、全滅なんかしないよう!」


「するじゃなくて、させるの方だけどな」


 まあ、これで裏ボスライフも楽しくなるかな。

 そう思いながら、困り果てたという感じのチカとは対照的に、特に感慨もなく現代建築の街並みを眺めた。

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