第二十九話 化物誕生

「これはまた、不思議な魔法陣ですねえ」

 宗徳が、僕の右手の甲に浮かんだ魔法陣をまじまじと観察している。

「全自動再生魔法? そんなものはあり得ない」


 そして、大きくナイフを振りかぶった。

 狙いは右手。

 魔法陣を切り離せば、魔法も消えると思ったのだろう。


「無駄だよ」

「こ、この化物め」

 ナイフに向かって突っ込もうとしたとき、宗徳は大きく後ずさった。


 僕の思考を読んだのだろう。

「怖がったな?」

 後ずさる彼を追いかけるように大きく踏み込み、腹を思いきり殴る。


「――ぐぅっ」

 宗徳は吹き飛び、玄関のドアを突き破って廊下にある壁にぶつかった。

「ここは狭い、場所を変えよう」


「なにっ」

 宗徳に走って近づき、顔面に跳び蹴りを喰らわせた。

「――がっ!?」


 その勢いのまま背後にあった壁を打ち破り、四階から真下にある駐車場へ落下する。

「蹴り潰してやる」


「このっ」

 宗徳は僕の足首をナイフで切り裂き、無理やり脱出した。

 そして、コンクリートの地面と衝突。


「いない?」

 足下から宗徳が消えていた。

「げほっ、ごほっ……攻撃を避ける素振りすら見せない。貴方はいったい、何をしたというのです?」


 横を向くと、ボンネットがへこみ、前面のガラスが割れている車の上に宗徳が立っていた。

 恐らく、あそこに着地したのだろう。


「僕の魔法は、お前のおかげで編み出せた」

 切られた足も巻き戻されるように治っていく。

「私のおかげ?」


 宗徳は首をかしげる。

「お前は、自分の悪行に倒されるんだ」

 彼が呪法を解いたから、拷問されていたときの記憶が戻った。


 そして、体内の魔力を消費させ続けていた呪いも消えた。

 つまり僕は、とてつもない速度で魔力を回復し続けることが出来るようになったのだ。

 でも、僕は攻撃魔法を使えない。


 いくら知識を持っていようと、魔法に必要なのは経験だから。

 なら、僕には何があるのか。

「僕には、これしかない」


 虎闘流ことうりゅうの構えを取る。

 隊長が褒めてくれたこの力で、僕は敵を打ち倒す。

 だから、戦闘魔法なんて使えなくたっていい。


 自分の身体で戦い続けるために必要な魔法があれば、それでいい。

 そう思ったとき、閃いた。

 ――自分の身体を治し続ければ、いつまでも戦える。


 だが、傷つくたびに治癒魔法を使うのは効率が悪く、敵に隙を見せることになる。

 だから、魔力を注ぐ限り発動し続ける魔法を発明した。

 魔力を常に消費し続けるこの魔法は、普通の人間には使えない。


 それに、普通の人間は攻撃を受ければ痛みを感じ、ひるんでしまう。

 即座に身体が治ったところで、反撃に打って出ることなどできない。

 でも、僕は化物だ。


 いくら傷つけられても、痛みなんて感じない。

 だから、攻撃されながら反撃できる。

「僕はお前を倒せるのなら、化物でも構わない」


 それに僕は、隊長みたいな優しい化物がいたことを知っている。

 優しい吸血鬼ノスフェラトゥがいることを知っている。


「僕は、化物になってやる」

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プラトーン ~最強の隊長~ 藤原リンゴ @hakamoto_0322

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