第十話 最初の出会い
そうして俺はらアズサを連れて明次の屋敷を離れた。
今は、第零部隊の家へ車で帰っているところだ。
「た、隊長は明次さんとどこで知り合ったんですか?」
ふと、明次がそんなことを尋ねてきた。
「長い話になるぞ。あいつと初めて出会ったのは、俺が王国の『円卓騎士団』に就任した時にまで、さかのぼることになるからな」
王国にも、かつてはプラトーンのような最強の部隊があった。
それの名前が『円卓騎士団』であり、俺とリディがもともと所属していた組織でもある。
円卓騎士団も俺が王国を追われたのと同時期に解散してしまったらしいが、皇国の人間となった今では、関係のない話だ。
「大して面白くもない話だが、聞くか?」
「き、聞きたいです。隊長のことを、もっと知りたいです」
「そうか。なら話そう」
――俺が円卓騎士団第二席になってすぐ、国王からある命令を受けた。
それは『王都に住む奇妙な男を殺せ』という内容だ。
その男こそが
彼は魔法ではない不思議な力を使い、正確性のない占いで我が臣民から金をだまし取っている。国王はそう言っていた。
「一人の男を殺すのに俺の力が必要なのか、その時は不思議に思ったが、国王直々の命だ。従うほかなかった」
そして俺は明次の家に行った。
あいつは、俺が来たことを知ってたかのように、先ほどと似たような屋敷の門の前に立っていた。
◇◇◇◇◇
「初めましてだな。アルマ。おれは安達明次というものだ」
「……俺が来ることが、分かってたのか?」
名前を知っていることより、そのことが不思議だった。
「おまえ、ここに来るとき、カラスの鳴き声を聞いただろう」
「ああ。まさか、そのカラスに仕掛けが?」
動物を操って偵察に使う魔法は、確かに存在する。だが、魔法を掛けられた動物というのは、魔力の残滓で分かってしまうものだ。
「いいや? おれはカラスに教えてもらっただけだ。あいつらは賢い。食い物をやれば、その分の仕事はしてくれる……おーい」
明次が空に向かって呼びかけると、ざあっ! と大量の鳥が一斉にはばたく音が響いた。
そして数分もしないうちに、王国中のカラスが集まったのではないかと思えるぐらいのそれらが、屋敷の屋根を真っ黒に染めていた。
「……これは」
魔法の気配を全く感じない。
本当に、魔法とは全く違う力なのか。
「おまえさん、おれを殺しに来たんだろう」
それは問いかけというより、確信に近い言い方をしていた。
国王からの命令は、円卓騎士団しか知らないはずなのに。
「それを分かってるなら、どうして逃げなかった?」
「話してみたかったのさ。本物の最強と」
俺は目を細め、刀に手をかけた。
「……その言葉は、庇い切れないぞ」
――王族は、あらゆる力において最強でなければならない。
金も、地位も、名誉も、そして力も。
それは、賢者の石を食らう者としての責務なのだ。
バルカン王国は、そうしてこれまで繫栄してきた。
ゆえに、国王より強い人間など居てはいけないし、居るはずもない。
俺が円卓騎士団第二席なのは、第一席に王が座るからに他ならない。
「そう焦るな。おまえが聞かなかったことにすればいい」
「円卓騎士団の人間として、王に対する不敬を見逃すわけにもいかんだろ」
なぜ、俺はこの男をすぐ斬らなかったのだろうと思った。
だが、不思議とこの男を斬れなかった。
そんな俺の迷いを見抜いたのか、明次はくつくつと笑う。
「健気なやつだ。自分が『化物』のように強いことを知っているから、地位で自分を縛ることで『人間』であり続けている」
「……」
何か反論したかったが、言葉が出てこなかった。
「地位なぞ、人間の作り出した虚像にすぎん。もっと、おまえ自身の感情を出してみろ」
「そう、言われてもな」
言語化できない迷いは心を曇らせ、刀を握る手から力が抜けた。
「ほら、ちょうど湯を沸かしてある。抹茶を入れてやろう」
なぜか俺は、殺害対象と一緒に茶を飲むことになっていた。
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