2,冬が明けた
凍った湖の表面が、少しずつ溶けていく春。その水面の煌めきに、いつかの夏の情景が浮かんだ。
沢山遊んだあの日。大好きだった親友と、あの湖で何度も遊んだ日。そんな日々が消えてしまったかのように、連絡の取らない今日この頃。いつからだろう。こんな関係になってしまったのは。この数年、自然と距離が離れていったように思う。
久しぶりに家から出て、湖の畔まで足を運んだ。水に手をかざしてみれば、まだまだ冷たいそれが指の間を通り抜ける。それとは反対に、通り抜ける風は温かさを取り戻してきたかのように感じた。
家を見てみる。窓際に置かれている固定電話に視線が引き寄せられた。連絡をしろと、そういうことであろうか。今更気まずいだけだと思う。迷惑なだけだと思う。でも、その一方で、またあの頃のような関係に戻りたいと思う私もいる。
まあ、無理だったときはそこでお終いなのだから。そう思えば、多少は気持ちが楽になった。季節は冬が明け、春になったのだ。私たちもそろそろ近づく頃なのかもしれない。
〔詞書〕はるたちける日よめる
袖ひちて むすひし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ
〔作者〕紀貫之
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