第12話 探索者登録試験を受けてみた②

 結果は……散々だった。

 まず、実力で解けた問題は一問たりとも無かった。

 一応実際にダンジョンに潜ったこともある身だし、運転免許の試験みたいにある程度は一般常識で解けるものかとも期待したのだが、そんなことでどうにかなる難易度ではなかったのだ。


 そして運で点数が取れたかというと……そちらの方もだいぶ絶望的だった。

 というのもこの試験、そもそも選択肢が6択な上に、ほとんどの問題が「当てはまるものを全て選びなさい」形式だったのだ。

 これでは当てずっぽうで25%もの点を取れるはずがない。


 予想以上に厳しい出だしに出鼻を挫かれた俺だったが、「筆記を突破しないと実技に行けない」わけではなく、「筆記と実技の総合点で合否やスタートランクが決まる」形式のようなので、一応実技試験も受けて帰ることに。


 実技試験は施設に隣接するグラウンドで行うとのことだったので、俺はタマと一緒にそのグラウンドで待機した。


 しばらく待つと、実技試験の試験官がやってきた。


「皆さんお揃いですね。……おお、今回は話題のあの猫ちゃんが。まだ探索者登録されていなかったんですね」


 試験官は全員を見渡した後、俺とタマの方を二度見しながらそんなことを呟いた。


「動画は拝見しました。あれほどの実力者なら、さぞ高い点数を叩き出してくれることでしょう。期待してますよ」


 ごめんなさい、筆記はクソミソです。

 試験官に認知されていることも相まって、俺は余計にいたたまれない気持ちを味わわされてしまった。


「それでは受験番号の早い順に始めさせていただきます。A001の方……!」


 そうこうしているうちにも、早速試験が始まる。

 みんなが何番なのか知らないのではっきりとは分からないが、今回の試験にはギリギリで滑り込んだ形だったし、筆記試験の時も後ろの方の席だったので、おそらく俺の順番はかなり最後のほうだろう。


 試験内容は大きく分けて二つ、「試験用ゴーレムと戦う」と「空中を縦横無尽に飛び回る的を制限時間内にできるだけ多く落とす」があり、受験者はどちらか得意な方を選んで挑めばいいみたいだった。


「なあタマ、どっちやる?」


「にゃあ(ゴーレムと戦うにゃ)」


「では最後の方どうぞー! あ、いよいよ例の猫ちゃんですね」


 タマと喋っていると俺たちの番が来て、試験官から声がかかった。


「どちらの形式を選択されますか?」


「ゴーレムと戦う方で」


「かしこまりました。では準備ができたらお声掛けください!」


「いつでもOKです」


「では……始め!」


 そして試験官が合図すると、ゴーレムが動き始めた。



 戦いが始まると……まずタマは、いつも通り左の前足を振り上げた。

 ただのひっかきか、それとも渾身の一撃が出るか。

 と思ったが……タマは左の前足を降ろさないまま、なぜかゴーレムが空中に浮かび始めた。


 これは……念力か?

 しかしなぜ浮かせる必要が。


「え……え?」


 思ってもみない現象に、試験官も思わずゴーレムを二度見する。


「あれああ見えて4トンくらいあるんだが……あんな軽々と浮くか……?」


 あいつそんなに重いのか。

 タマの念力の最大出力がどの程度かは分からないが……少なくとも今は、全然限界には程遠い力しか出して無さそうな様子だな。


 して、いったいタマはゴーレムを浮かせて何をしたいのか。

 疑問に思っていると、唐突にタマは左前足を振り下ろした。


 すると――次の瞬間、ゴーレムが大爆発し、轟音が鳴り響いた。


「うおっ⁉」


 あまりの音量に、俺は咄嗟に耳を塞いだ。

 渾身の一撃を選んだか。

 それは良いとして……いくら渾身の一撃とはいえ、あんなえげつない大爆発を起こすなんて聞いてないぞ。


 まさか空中に浮かせたのは、俺たちを爆発の巻き添えにしないためだったというのか。

 あそこまでしなくても、ただ単に破壊すれば実力は証明できたと思うのだが……。


 ふと振り返ってみると、試験官が口をあんぐりと開けたまま固まってしまっていた。


「は……?」


 他の受験者たちも皆、目ん玉が飛び出さんばかりに驚いている。


 数秒の静寂の後、試験官はかすれ気味の声でこう続けた。


「嘘だろ……。全身木っ端微塵って……動力源までぶっ壊すとかあり得ないぞ……!」


 ん……どういうことだ?

 俺は試験官の物言いがちょっと気になった。


 この試験官、爆発の威力に驚いているというより、ゴーレムが全身塵と化した方に驚いてるみたいだな。

「動力源」ってワードが出てきたが……それが壊されるって、そんなに特別なことなのだろうか。


「一点伺ってよろしいでしょうか?」


「え、ええ……どうぞ」


「動力源が壊されるのって、そんなに変なんですかね……?」


 すると……試験官は何度か深呼吸した後、後頭部をぽりぽり掻きながらこう説明してくれた。


「試験用ゴーレムの動力源はですね、高度損壊回避機構によりダメージが異次元に飛ばされる構造になっている仕様になっているんですよ。ですので通常は、いかに高い攻撃力が高かろうと、たとえ初手Aランクになれるほどの逸材だろうと動力源だけは破壊できるはずがないんです。それを破壊するって……ちょっと何ていうか、もう文字通り次元が違いますね」


 ええ……そんなエグいことだったのか。

 たしかに、あんな派手に爆発するものが簡単に壊れたら危険すぎるし、おそらくは安全上の理由で動力源だけでも手厚く保護されてたんだろうな。

 そしてタマは、その保護を無視して全てをぶった切ってしまったというわけか。


 しかしそうなると……一個だけ懸念点が出てくるな。


「あの……それってやってしまって良かったんですかね? 弁償とかって……」


 他の受験者にもゴーレムを一部破壊する者はいたので、ゴーレムの破壊自体が問題になることはないはずだ。

 しかし動力源は話が別で、壊すと怒られる代物だったりしたらどうしよう。


「ああ、それはお気になさらず。動力源の高度損壊回避機構は協会内に生産体制があるので、正当な運用の上で壊れる分には全く問題ございません。むしろ、壊さないために力を出し惜しみして、本来の実力が測れない方がまずいですから……。ただ、壊れるなんて前代未聞ですが……」


 と思ったが……どうやらその心配は杞憂なようだった。


「すみません、ご迷惑をおかけして」


「いえいえ、とんでもないです。試験はこれにて終了です」


「ありがとうございました」


 それでも仕事を増やしてしまったことには変わりなさそうなので一応謝っておき、試験は終了することとなった。


「では、後ほど結果をお知らせしますので待合室でお待ちください」


 そして俺たちはそう告げられ、元の建物で結果を待つこととなった。

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