第2話 友釣りは突然に

「カズくんお疲れさま~。はいっ、これでも食べて元気回復だよっ!」

「……歩美アユミか、ってピーマンじゃねーかっ!」


 考え事をしていた俺に緑のブツピーマンを持ってきたのは幼馴染の歩美だった。俺たちはこうして、戦いの後はバーベキューBBQを行っている。


「どうせなんで『俺が命をかけてるんだー!』とか悩んでるんでしょ。カズくんは私たちのために戦ってくれてたんじゃないの?」


 なぜ俺がロボッ魚に乗って戦っているのか、その理由は俺には思い出せない。ただ、歩美と話しているうちに多分そうなんだろうという気持ちに今はなってきている。


「鮎の友釣りをしていただけなのに……」


 緑のブツを持った歩美から逃げて少し山の奥へと入った。皿に載せられたその他の肉や野菜とともに少しだけ押し付けられたがピーマン単品の皿は回避できただけよしとしよう。そこで見つけたちょうどいい岩に腰掛けて考える。流美子さんに一目惚れをして命を賭けて初めてロボッギョに乗ったことは覚えているが俺が戦いだした理由はなんだ……。そこまで考えて答えが出ていたことに気が付いた。あれ? 理由を思い出そうとしていたけど一目惚れが理由でいいんじゃないか? っと。


「濃すぎる時間を過ごすと記憶って霞むんだな」


 ふと、背後に気配を感じて振り返ると薄汚れた白衣をきたグルグル眼鏡をかけた男がいた。


「っよ。どうだい調子は」

「ぼちぼちだな。体の方は問題ないよ」


 こいつは琢磨タクマ、見ての通りの科学者でロボッ魚はこいつの発明だ。


「ちょっとお前さんの独り言が聞こえてきてよ。昔話をしてやろう」

「どうしたんだよいきなり。気持ちわりぃな」

「いいから聞きたまえ」


 隣に腰を下ろした琢磨は俺の方を見ずに山の木々を眺めながら話し出した。


「友釣りの仕組みはしっているかい?」

「あたりまえだろ。縄張り意識が強い鮎の習性を利用してを排除するために近寄ってきた鮎に針を引っ掛けて釣るんだ」


 友釣りなんて名前がついちゃいるが現実はまったく違う。むしろ敵対行為をしかけさせて釣るのが友釣りの本質だ。


「実はこの地球は宇宙からの侵略者に悩まされていてね。そこで国際対侵略者組織〝Anti Yabai UMAAYU〟が結成されたんだ」

「この組織は地球規模の期待を背負ってるのか……」


 琢磨は頷く。その顔は真剣そのもので〝Yabai〟部分を茶化すことはできなかった。


「でだ。その侵略者というのが我々とは違う時空間移動が可能で地球の内部、地殻に侵入し地球のエネルギーを吸い上げているんだ」

「どうやって倒すんだよ……」

「何を言っているんだ? ……キミが倒してきたんだろ」


 は? 俺が戦ってきたのは確かに宇宙外来魚だが……。


「あれは普通の宇宙外来魚だろ。そんな時空間移動だの地球を滅ぼすほどの力があるだの思えないんだが?」

「それは、君が〝おとり〟となってやつらを釣り上げてるからなんだ」


 琢磨によると俺は特異体質で、鮎の友釣りを行ている間だけやつらと同じ宇宙外来魚と同じパルス信号を発信しているらしい。


「釣り上げられたやつらはただの宇宙外来魚だ。特殊な力を使うことも忘れてキミの排除に全力を尽くしてくれる。それを利用して……」

「―――ふざけんなっ! 人をなんだと思ってやがる!」


 気付いた時には琢磨の顔には殴られた痣が出来ていた。そして俺の拳は赤くなり、痛みを感じていた。


「歩美が大事なんだろ? 守りたいとキミは言っていた」

「歩美は幼馴染だ。だが俺が守りたいのは流美子だ……」

「―――流美子っていうのは誰なんだ?」


 は? いや、いつも琢磨と一緒にいただろ……。だから研究所に……。一目惚れだった? 俺は、歩美が……。


 ザザッ―――


 脳裏にノイズが走り、記憶の中の流美子の姿が変化していく……。変化を終え、はっきりと認識されたその姿は宇宙外来鳥〝西瓜鳥スイカバード〝に酷似していた。


『あら? 目が覚めちゃったみたいね』


「流美子、お前も地球が欲しいのか?」

『……いいえ。私が欲しいのはあなたよ、一男さん』


 ―――その声はいつもの流美子だった。


『最初は私たち〝果実鳥トロピバード〟の餌、魚を安定的に確保できる人間として利用するために近づいたわ』

「まるで扱いだな」

『そうね。けど、マザーが貴女もろとも消し去ろうと動き出した。ロボッ魚はそれほど危険なのよ。宇宙のバランスを崩してしまうほどにね』


 いつの間にか俺たちのいる空間は真っ暗な地面の底へと変化していた。


「マザーの指示で何度壊しても作り直される。しかもどんどんと性能が上がってきている。これを脅威と取らなくて何を脅威とするの?⋯⋯私はあなたを失いたくない。だからお願い、私と一緒に来てほしいの」


 黒いロングヘア―の赤い目の女性はその二つの西瓜の前で祈るように手を合わせて目を瞑り俺に訴えかける。閉じられた瞼から水分の潤いを感じた。


「―――信じるよ。流美子を信じる。だから泣くな」


 女の涙に勝てる男なんていねーよな。それが例え俺を騙してきた倒すべき敵であったとしても、今だけは負けでいい。


「……やっぱにげぇな」


 手に持った皿からピーマンを口に運び齧りつく。―――俺は歩美が大切だ。完全に思い出した。


「誰も覚えていなくても俺だけは覚えてる。お前が流美子として一緒に戦ってきたのを覚えてる」


 一目惚れだった。その豊満な西瓜に―――。


『話をしている間もずっと人の胸をみているなんて最低ね』


「鳩胸の間違いだろ?」


 あら上手と流美子は笑った。最低でもいいさ、戦う理由がそこにあるなら。


「じゃあ、ちょっくら和平交渉といこうか! なぁ、流美子!」


 そこはもう地殻ではなく元いた山の中だった。周りには歩美を含めた研究所関係者の仲間たちがいた。


「流美子さんが二人の映像を流してくれていたんだよ。カズくん! 私もいくよ!」

「ロボッ魚の所有権は僕がもってるんだから勝手にはいかせられないな。ちょっとだけ待っててくれ。地球の総力を挙げてのバックアップ体制を整えさせるから」


 え? 琢磨にそんな権限あるの? なんて野暮なことは俺は聞かない。こうして地球存亡をかけた戦いは俺の命を賭けた戦いへと変化していった。




「いつか、歩美と流美子と琢磨たちと戦いのない世界で笑うために負けらんねーな!」


 死ぬわけにはいかない。苔のむすまで生きてやる。



── 完 ──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

西瓜な胸に一目惚れ たっきゅん @takkyun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ