奥手な男の女事情

遠藤良二

【短編小説】奥手な男の女事情

 今日、僕は初めて女性を抱いた。二十二歳の夜のことで僕は山形誠也やまがたせいやという。女性は斉藤御子さいとうみこといい、二十四歳。御子さんとは大学時代に同じ卓球部で知り合った。僕たちは交際しているわけじゃない。僕はお酒は呑まないが御子さんは大好きのようだ。以前飲み会があって御子さんに誘われた。彼女が僕に気があるのかはわからないが、酔った勢いで帰り際、僕を御子さんの部屋にあげた。僕は女性の部屋に入るのは初めてなので緊張した。僕は今のところ女性と交際したことはない。御子さんは「暑い」と言いながら赤いTシャツを脱いで上半身はブラジャーだけになった。幼少から小学生にかけて見た女性の裸体は母親だけで、他人の裸体を見るのは、斉藤御子さんだけだ。奥手な僕はただじっと見ているだけだった。彼女はニヤニヤ笑いながら僕を見ていた。そして、近付いて来て顔がくっつくくらいまで寄って来た。僕は赤面しているのを自覚している。御子さんは、お酒臭かったけれど彼女の艶っぽさにそんなことは気にならなかった。御子さんは言った。「いいことしよ?」 僕は緊張のあまり、何も言えず動けなかった。「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。あたしがその緊張をほぐしてあげる」 僕は御子さんにされるがままになっていた。僕は思った。避妊具がないと。それを言うと、「あたしの元カレが忘れていったコンドームあるからそれ使って」「わかりました、元カレは避妊具を取りに来ませんか? 減っていたら誰かとしたんだ、と思われますよ?」 御子さんは笑っていた。「誠也君、面白いこと言うね。そんなの取りに来るはずないじゃない」「そうですか」「そうよ」 御子さんはまだ笑っている。なんだか馬鹿にされている気がする。まあ、御子さんだからいいけれど。僕は大学生のころから、斉藤御子さんに憧れていた。今でも変わらず憧れている。 一夜を共にし、一方的に御子さんから触られまくった。でも、もちろん嫌ではないし、むしろ嬉しかったくらいだ。 今日は日曜日。仕事はシフト制なので僕は仕事の日だ。朝八時までに出勤しなければならない。宅配の仕事で二トンのトラックに荷物を載せ、伝票も持った。夕方六時ころ退勤し、帰ろうとしたときだ。先輩の小茂田佳子おもだかこさん、二十六歳に呼び止められた。どうしたんだろうと思い彼女をみつめた。「今夜、なにか用事あるの?」「いえ、ないですよ」「じゃあ、ご飯食べにいこ?」「ええ、いいですよ」 佳子さんからの誘いは先月もあった。僕のほうからは誘っていない。「先月みたいに悪いけどわたしのアパートまで迎えに来てくれない?」「はい、いいですよ」「支度するから七時半ころ来てね?」「わかりました」「それじゃ、あとでね~」 これで今夜の予定は決まった。僕も帰宅したら出かける準備をしよう。佳子さんもお酒は強い。僕はお酒は呑まないからみんな足に使っている。仲間だからいいけれど。職場の仲間たちはみんないい人で、僕を足に使う代わりに、食事をご馳走してくれる。居酒屋だったとしたら、おかずをわけてくれたり、食堂で食べる場合は一人前をおごってくれる。だからなのかはわからないが、「誠也君は真面目で優しい人」と言われる。率直に嬉しい。 僕も支度しようと思い下着と青いTシャツとベージュのハーフパンツを用意し、脱衣所に持っていきシャワーを浴びた。洗髪と体を洗い上がった。十五分くらいで浴室から上がり、体を拭き、用意したものを身に着けた。今日も暑い一日だ。今は八月で真夏。北海道でも最近では暑い日が続く。僕が住んでいる地域では昔から夏は割と涼しく、冬は温暖と言われているが変わってきた。夏は猛暑で、冬は極寒。気候の変化が激しい。最近では地球温暖化ではなく、地球沸騰化と言われている。これから地球はどうなるのだろう。  そんなようなことを考えながら着替え、テレビの電源を入れた。今の時刻は十九時前。ニュースには興味がないから、時間までバラエティ番組のチャンネルに合わせた。人気のお笑い芸人が出ている。でも、僕はあまり興味がない。他のチャンネルに切り替えると、地球沸騰化が話題の番組が放送されている。面白そうなので、DVDにダビングした。あとで観よう。時刻は十九時を回ったので佳子さんを迎えに家を出た。十分くらいで彼女の実家に着いた。そう、小茂田佳子さんは実家暮らしなのだ。職場は僕と同じで、彼女は明日は休みだ。僕は仕事だけど。僕の仲間や知り合いは、自分の都合で動いていて、僕のことをあまり考えていない気がする。それでも、まあいいか、と思う。前にこの話をしたら佳子さんは「心が広いんじゃない?」と言っていた。この発言も嬉しかった。 家のチャイムを鳴らした。ブーっという音が聴こえた。すると中から、「はーい!」という叫ぶような声が聞こえた。佳子さんだ。ドア越しに、「誠也君?」と聞こえたので、「はい、そうです」と答えると鍵が開き彼女が出てきた。かわいい服装だと思った。ピンク色のワンピースに茶髪のポニーテール姿。「すぐに行く?」と訊かれたので「お腹空いたのですぐ行きましょう」と答えた。彼女を促し、僕の車の助手席に乗ってもらった。女性から誘われたのは、斉藤御子さん、小茂田佳子さんで二人目だ。僕ってもしかしてモテるのか。でも、ここで自惚れちゃだめだ。たまたま誘われただけかもしれない。佳子さんは話しだした。「誠也君、モテるでしょ?」まさかの質問に驚いた。「そんなことないっスよ」彼女は笑みを浮かべている。「だって、会社の女の子、誠也君かわいいって言ってたよ。実際、わたしもかわいいと思うし」そう言われて更に驚いた。「マジっすか!?」佳子さんは相変わらず笑顔を浮かべている。「出発しますよ」と僕は話題を変えた。「何が食べたいっすか?」 彼女に訊くと、「ホントはラーメンとか焼肉が食べたいけど、この服装じゃ無理ね。汚しちゃう」と言っている。少し汚れてもいいような格好でくればいいのに、と思った。言ってはいないけれど。実は僕もラーメンが食べたかった。でも、仕方ない。着替えてもらうわけにもいかないし。僕は訊いてみた。「じゃあ、他に何食べたいですか?」 すると彼女はこう答えた。「ラーメン屋に行こうか」 意外な返答だ。「でも、ワンピースに汁がはねたら汚れちゃいますよ」 佳子さんは、笑いながら言った。「ライスとギョーザを食べるのよ」 なるほど! と思った。「その手がありますね」「ラーメン屋だからってラーメンしかないわけじゃないからね!」 確かに、と思った。「僕はラーメン食べますよ?」「どうぞどうぞ」 佳子さんは笑顔だ。ラーメン食べたくないのだろうか。訊いてみると、「今度ね」 と答えた。彼女はこう言った。「わたしの友達にラーメンがめっちゃ好きな子いるから今度は三人で行かない? 誘ってね! と言われてるし」「うん。どんな人ですか?」「そうねえ、明るくて優しい人よ」「女性ですよね?」「そうよ」「いくつの女性ですか?」「わたしと同じ二十六よ」「そうなんですね、会ってみたいな」「今度よ今度」 僕は黙っていた。すると彼女は、「なあに、そんなに会ってみたいの?」「そうですね」「まあ、今日誘うのは急だから、来週はどう?」 僕はシフト表を思い出そうと考えたけど、次の休みしか考えていなかったので思い出せない。なので、「僕の休みは帰ったらシフト見てみます」「そうね。わたしもそうする。それと友達のシフトも訊いてみないとね」「そうですね。さて、出発するかな」「そうね。長々と話しちゃったね」「まあ、いいっすけど」「どこのラーメン屋にいきますか?」「にんにくたっぷりのとんこつラーメンの店がいいな」「へー! 意外。そういうのは苦手かと勝手に思ってました」「そうなんだ。とんこつ最高!」 言いながら彼女は笑っていた。「とんこつラーメン専門店はないかもしれないけど、とんこつラーメンを食べれる店はあると思いますよ。ラーメン屋に適当に行ってみますか」「そうね、そうしよっか!」 僕らは適当にラーメン屋に行き、入ってみた。そして、訊いてみた。「とんこつラーメンはありますか?」 それに対して店員は、「あー、うちは作ってないんですよ」と言われた。なので出てきた。他にも何軒か行ってみたが、作ってないと言われた。「意外だな。どこでも食べれると思ったのに」そう言うと佳子さんは、「これだけ探してもないからとんこつじゃなくてもいいよ」「そうですか? せっかく行くのに残念ですね」「仕方ないわよ」 僕は困ったので佳子さんに訊いてみた。「どこかお気に入りのラーメン屋はありますか? あるならそこにいきましょう」「うーん、お気に入りという店はないけど、行ったことのある店ならあるよ」「さっき行ったラーメン屋の中にありますか?」「ないよ。わたしが行った店にはとんこつないから」「そうなんですね。じゃあ、ここから一番近いところにいきますか」「そうね」 意見が合致したのでそのラーメン屋に行くことにした。十分くらい車を走らせ到着した。とんこつラーメンを作っている店を探すのにだいぶ時間を食ったので、時刻は二十時を過ぎていた。 その店に入り、僕は白味噌角煮ラーメンで佳子さんは、赤味噌ラーメンを食べた。「おいしかったね~!」と言いながら店から出てきた。僕はかなり空腹感が強かったので、炒飯も食べた。佳子さんは、「凄い食べるね!」と感心していた。「うん、かなりお腹空いてたから」と言った。結局、佳子さんはギョーザを食べずにラーメンを食べた。チラッとワンピースを見ると少し汁が飛んで汚れていた。そのことは言わなかったけれど。 店を出て、佳子さんは、「わたしのアパートにこない?」と誘われた。「え? いいんすか?」と訊くと「いいよ、晩酌の相手してね」と言った。「はい、いいですよ」そう答えた。 僕は飲み物を買いにコンビニに行くと伝えてから向かった。佳子さんと二人で店内に入ると、彼女は真っ先にかごを持ち、お酒コーナーに向かった。そして、五百ミリの六缶パックを一つ入れた。カレイのつまみやトバなどをカゴに入れた。佳子さんが話しかけてきた。「食べたいものや飲みたいものがあったら入れてね。買ってあげるから」 僕は、「え? いいんですか? 悪いですよ」すると佳子さんは、「これでも誠也君の先輩よ。先輩に恥をかかせる気?」 と悪戯な笑顔で言った。年は四つ上だけれど、かわいい、と思った。「いえ、そういうわけではないですけど。じゃあ、お言葉に甘えて」 僕はモナカのアイスと、カップに入ったバニラアイスを選び、カゴに入れた。買い物を終えて、車に戻った。佳子さんは僕の車の中でビールを取り出し、口を開けて飲みだした。相当すきなんだな、と思った。僕は佳子さんに「毎日呑んでるんですか?」と訊くと、「もちろんよ! 呑まなきゃやってられない!!」 そう答えた。僕は続けて言った。「相当ストレス溜まってるみたいですね」「そりゃそうよ! 客に文句を言われたり、挙句の果てには部長にまで怒られるし。最悪よ!!」 僕は不思議に思った。「何で部長は頻繁に怒るんですかね。僕は話しかけられないですよ」 彼女のアパートに着いて、こう言った。「部長はきっとわたしのことが嫌いなのよ。だから、いちいち文句を言ってくるのよ」 僕も同じことを思っていたので黙っていた。「誠也君も思わない? 絶対、部長はわたしを嫌ってるって!」「まあ、否定はしません」 少し間が空いて、「でしょ! 間違いないよ!!」 彼女は普段は割と大人しい女性だけど、自分の部屋に戻って僕を招き入れたら凄い剣幕で話し始めた。相当ストレスが溜まっているのかな。「ムカつく! わたしは真面目に仕事してるだけなのに!!」「そうですよね! それは認めます」 そう言うと佳子さんは笑みを浮かべ、「だよね! なかなか気が合うじゃない」 僕も嬉しくなって笑った。「誠也君、彼女いるの?」 唐突な質問だ。「いませんよ」 今度はにやにやした笑みを浮かべた。彼女のビールは既に二本目だ。一缶目は手で潰されている。「わたしも彼氏いないんだ。だからさ、相手がいない者同士、慰めあおうよ!」「え? 慰める? どういうことですか?」「ちょっと、女のわたしにそこまで言わせるの? エッチよエッチ」「はあ、いや僕は構いませんよ。避妊具ないですけど」「え? 持ち歩いてないの? ましてや女のわたしと会うっていうのに」 僕はしどろもどろになりながら話した。「いや、僕はご飯を一緒に食べて帰るのだとばかり思ってるんで……」 佳子さんは呆れた表情になった。「あんた、女と会うってどういうことかわかってる? エッチする可能性もあるのよ? わかってないなあ」「そうなんですね、今から買いに行きますよ。ドラッグストアならまだ開いてますから」「うん! 行ってきて。戻ってきたらチャイム鳴らさずに入ってきていいから」 僕は頷きながら「わかりました」と言って部屋を出た。 避妊具を探すのに少し時間がかかった。どこにあるのかわからなかったから。彼女の部屋に戻るのに三十分くらいかかった。アパートに着いたと同時に僕のスマートフォンに着信があった。誰だろうと思い画面を見た。佳子さんだった。「はい、もしもし」僕は思わず笑ってしまった。「今、着きましたよ」「そうなんだ、じゃあ、早く入ってきてよ」今、着いたばかりだもん、と思いながら電話を切った。室内に入り、「シャワー浴びて来るね」と言いながら下着を持って浴室に向かった。「あ! 誠也君も一緒に入る?」そう言われて驚いた。「狭くないすか?」と言うと、「明らかに狭いわね」言いながら笑っていた。少ししてシャワーの音が聴こえてきた。僕は、緊張してきた。この前会って体の関係を持った斉藤御子さんと同じような心理状態になった。この短期間で女性に誘われたのは二人目だ。僕ってこんなにモテる男だったか? 積極的な女性ばかりだな、と思った。それとも僕が奥手なだけなのかはわからないけれど。二十分くらいで佳子さんは脱衣所から出てきた。彼女はバスタオルを体に巻いて出てきた。豊満な肉体だ。「はー、気持ち良かった。誠也君も入っていいよ」と言うと、「わかりました、バスタオル借りていいすか? 洗って返すので」「いいよ、洗わなくて。わたしが洗濯するから」「ありがとうございます」 そう言うと佳子さんは別室に行き、青いバスタオルを持ってきてくれた。それを受け取って「じゃあ、浴びてきます」そう言って僕はシャワーを浴びに浴室に入った。「ゆっくり入ってきて。そしてあがったら思いっきり抱いて」僕は思った。この人は本当にエッチが好きなんだな、と。それと同時に僕も興奮してきた。早く彼女を抱きたい気分になった。恥ずかしいのか、顔を赤くしながら「寝室に行こう」と言われた。僕はあとをついて行った。僕は服を脱ぎ、全裸になった。普段からこちらから誘うことはないので黙っていると、「早く抱いてよ!」と怒られた。僕は言われた通りにした。 一時間くらいシングルベッドの上で絡み合っただろうか。佳子さんの言う体位でやった。初めてのやり方ばかりでぎくしゃくした。童貞ではないけれど童貞に近かったから。「また、ラーメン食べに行こうね、今度はわたしの友達も一緒だけど。まあ、来るって言えばのはなしだけど」「その人は女性ですか?」「そうだよ。わたしね、誠也君だから言うけど、バイセクシャルなの。その友達はレズなの。だからわたしと誠也君は関係が成り立つわけ」「どこで知り合ったんですか?」「ああ、それはね、そういうサイトがあるの。出逢いを求めている人のためのサイトね」 僕はその話しを聞いて関心を抱いた。「僕もそういうサイト、やってみようかな」 僕が賛同したからか佳子さんは嬉しそうに笑った。帰宅したらそのサイトを見てみようと思った。「ちなみに、佳子さんはその女性と交際してるんですか?」 彼女は大きな声で高笑いした。「そんなことはないよ、だってその子には彼女がいるから」「あ! そうなんですね。なるほど。じゃあ、ただの友達ですか?」「そうよ」 なるほど、いろんな関係があるものだな。僕は自分が世間知らずだということを実感した。僕は疑問に思っていることがある。そのことを質問してみた。「佳子さんはどうして僕とセックスしようと思ったんですか?」「それは、あなたがかわいいからよ」「かわいい……そうなんですね」「うん、そう! あ、それとね、さっきのサイトの話しだけど、お金かかるからね」「そうなんですか、じゃあ、やめます」 佳子さんは笑いながら、「決断早いねー」と言っていた。そりゃそうだ。お金を出会い系サイトに使う余裕はないから。そう言うと、「確かに。わたしはボーナスで支払ったよ。そのサイトやろうと思ったときがボーナスの時期だったから」「なるほどー。それなら払えますね!」「次回遊ぶときのためにこずえにメールしておこうかな」「こずえ……さん?」「ああ、わたしの友達の話し。誠也君にも話したじゃない。今度は三人で食事するって」「あー! その人のことなんですね」「そうそう、焼肉にしない?」「それでもいいですよ」 佳子さんはメールをうっている。そのこずえさんという女性はどんな人だろう。気になる。僕は内気な性格だから、斉藤御子さんや、小茂田佳子さんみたいに積極的な女性があっていると思う。一応、佳子さんに訊いてみた。「そのこずえさんという人はどんな女性なんですか?」「そうねえ、おとなしい子よ。わたしより一つ下の二十五歳。でも、かわいい顔してるわよ。彼氏はいないみたいだけど」「僕は積極的な女性があってるみたいです。佳子さん、積極的ですよね。いいと思います」 そう言うと、「あら、そうなの。ありがとう。わたしはこういう女だからおとなしい男が好き」 僕は斉藤御子さんのことを未だに憧れている。でも、佳子さんとも関係をもってしまった。もしかして僕はかるい男なのかな。御子さんのことを考えていると無性に会いたくなってきた。帰宅して御子さんに連絡しようかな。よし、そうしよう。「僕、帰りますね。用事を思い出して」「あら! そうなの。なんだ、もっと一緒にいたかったのに」 また来ます、とは言わなかった代わりに、「楽しかったです」と伝えた。「またね」と言われたが僕はスルーした。僕は服を着て玄関に行き送ってくれた彼女に「では」と挙手しながら言って部屋を出た。 斉藤御子さんにメールを送ったのは深夜零時を回っていた。もう寝ているかもしれない。返事は明日でもいいので送っておこう。<こんばんは! 寝てますか? 気付いたときにメールください>というもの。 案の定、メールは翌朝きた。<おはよう! 昨日は寝てたよ。久しぶりね。どうしたの?> 僕はこう返した。<今度、焼肉食べに行きませんか?> 少ししてメールがきた。彼女は今日仕事だろう。僕も仕事だ。<いいわね! いつ行く?><御子さんは土日休みだから土日に行きますか?><それでもいいよ><じゃあ、今週の土曜日でもいいですか?><うん、いいよ> よし! 二回目のデートの誘いは成功した。順調だ。前回デートしたときから数日経過する。あれから御子さんは何をして過ごしていただろうか。まさかこの短期間に彼氏はできていないとは思うが……。訊いてみないとわからない。<あれから何をして過ごしていましたか?>仕事に行く支度をしているのかな、返事がこない。僕も出勤の準備をしなくては。仕事に行って、昼休みにもメールはこない、なぜだろう。何度もメールを送るのはしつこいから夜まで待とう。僕は十八時三十分ころに仕事を終えた。気付かないうちにメールがきてるかも、と思いスマートフォンを確認したがきていない。忙しいのだろうか。まあ、今週の土曜日に焼肉を食べに行く、という約束をしているから一通くらいメールが返ってこなくても問題ないだろう。きっと何か事情があるのかもしれない。そしてその日の夜、御子さんからようやくメールがきた。本文は、<メール返すの遅くなってごめんね。ちょっとバタバタしていて> 僕はすぐにメールを返した。<そうだったんですね。御子さんに何かあったのかと思い心配でした> メールが返ってくるまでに三十分くらいかかった。何をしているのだろう。本当に大丈夫なのかな。心配は募る一方だ。それだけ彼女に惚れている証だろう。でも、御子さんはどうだろう。僕の事を気に掛けてくれているのだろうか。悪い方に考える必要はないが。でも、僕はどちらかと言うと思考がネガティブな方なのでついついそちらの方に考えがち。<いやいや、もう大丈夫だから。でも、心配してくれてありがとね> そう言われ僕は安心した。<それなら良かったです!> 暫く間が空きメールがきた。御子さんからだ。<誠也君みたいに心配してくれる男性はいないよ><そうなんですか? 御子さんモテますよね?> メールはすぐにきた。<そんなことないよ、全然モテないよ><そうなんですか。でも……でも僕は……御子さんのこと好きですよ!> またもや返信は早かった。<え! そうなの? 全然気付かなかった。でも、ありがとう><いえ、だから付き合って欲しいのですが……駄目ですか?><あ! そういうことね! ごめん、鈍感なもので。いいよ、あたしで良ければ><勿論ですよ! 宜しくお願いします!><こちらこそよろしくね!> こうして僕達の交際は始まった。二歳年上の彼女が出来た。嬉しい! なるべく喧嘩をせずに円満に過ごしていきたい。佳子さんの友達三人で焼肉を食べに行く話しになっていたが断ろう。その代わり、御子さんと行く。 窓から空を見上げると綺麗な満月だった。これからの僕達を祝っているように思えた。


                                     終

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奥手な男の女事情 遠藤良二 @endoryoji

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