第七話

 服屋にやってきた。

 駅前にある服屋なので、到着するまでに大した時間はかかっていない。

 

 「それじゃあ会長、まずは自分で服を選んでみてください。会長と右京の服の好みを合わせたいので」

 「了解! 待ってて!」


 好きな人が普段どんな系統の服を着ているのか気になって言ってみただけなのだが、会長は何の疑問も抱かずに服選びに行ってしまった。

 待機すること数分。

 服を選び終えた会長を連れて更衣室に行き、俺は着替え終わるのを待った。

 

 「翔くん! 着替え終わったよ!」


 カーテンを開け放った会長の姿を見て、俺は絶句した。

 ……ひどい。これはあまりにもひどい。

 上半身は和服、下半身にはスカートを身に着け、和と洋がごちゃまぜになったような……そんな奇妙な格好をしていた。お洒落のつもりなのか、趣味の悪いグラサンまでかけている。

 

 「あー……その……お似合いだと思います……」

 「でしょ!? 翔くんとは服の趣味合うのかもね!」


 そんなわけないだろうが___俺は心の中でツッコんだ。

 しかしどうしよう……。

 会長の感性がここまで絶望的だとは思わなかった。

 普通の格好を要求すれば無難なものを用意してくるだろうという予想だったのだが、どうやらそれは間違いだったようだ。

 そもそもメイド服を着ることに何の疑問もいだかない時点で、普段の服装がマトモなはずないじゃないか……。

 会長の服を選ぶとは言ったものの、他人を……それも女性をコーディネートなんてした経験が俺にはないので、正直どうすればいいのか分からない。

 まいったな、と頭を悩ませていると、ふと背後から肩を叩かれた。

 振り返ると、服屋の店員が苦笑いを浮かべて立っていた。


 「……あの、お困りのようでしたら私がコーディネート致しましょうか?」


 俺は何気なく会長の姿をチラリと一瞥いちべつした。

 その格好はあまりにも滑稽こっけいで、とても人様に見せられるものではない。この状態で街中を歩けるわけもないし、何よりも隣を歩く俺が恥ずかしい。


 「……すいません、お願いします」


 俺は顔を赤くしながらも、しかしハッキリとお願いした。




 流石は服屋の店員と言うべきか、彼女は会長に完璧なコーディネートをほどこしてくれた。

 灰色のパンツに漆黒のニットとニットジャケット。

 どこかレトロな雰囲気を感じさせる千鳥格子ちどりごうしは、見た目だけはやけに大人っぽい会長の魅力を引き立てていた。

 正直、めちゃくちゃ似合っている。息をするのも忘れ、俺は会長に見入っていた。

 

 「どうかな!? 似合ってる!?」

 「……あ、ああ、似合ってます」


 興奮したように顔を紅潮させながら話しかけてくる会長に、動揺のせいか曖昧あいまいな回答しか用意することができなかった。

 会長は選んでもらった一式コーデがよほど気に入ったのか、購入することを即決していた。

 会計する際、俺は店員さんに話しかけられた。


 「可愛い彼女さんですね。こんなにいい子なかなかいないので、大事にしてあげてください」

 「か、彼女だなんてそんな……え、そう見えます?」

 「あはは、違いますよ! 翔くんとはただの友達だもん!」


 俺は満面の笑みで断言する会長にジト目を向けた。

 まったく悪気がない分、心に来るダメージも大きい。

 右京のことが好きなのは知っているが、少しくらい動揺してくれてもいいんじゃないかと思った。



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 伏見ダイヤモンド

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