第六話

 生徒会メンバーで水族館に行くことになっている日曜日。

 俺は集合時刻のおよそ二時間前に待ち合わせ場所の最寄り駅に到着していた。

 理由はもちろん、会長にこの時間に来るよう呼び出されたからである。

 メールでのやり取りで呼び出されたため、何故そんなに朝早くから集合するのかと問うと、こんな返信が届いた。


 『明日の水族館デートで右京くんを落とす計画を立てたいから!』


 ……本当に、俺の喜びを返してほしい。

 会長から連絡が来ることなど滅多にないので、何かしら恋愛イベントが起こるのではと期待していたのにこの仕打ちである。……それに今回は俺も同伴するのだから決してデートではない。

 断ると後々あとあと面倒くさそうなのでとりあえずはそれを了承したが、会長と右京の仲を取り持つなんてまっぴら御免ごめんだ。

 俺としてはこのデートを成功させてやるつもりなんて毛頭ない。

 会長の誘いが断られるだろうと考えてこれまで油断していたが、OKされてしまったとなれば話は別だ。

 なぜ会長を恐怖の対象としている右京がデートを承諾しょうだくしたのかは分からない。が、もしかすると彼も顔を真っ赤にしながら遊びに誘ってくる会長を見て拒否するのに気が引けたのかもしれない。

 俺にははなから来ない、という選択肢もあったのだが、会長と右京を二人きりにするというのはなんとなく嫌だったので同行することにした。

 改札を通り、駅前に到着した俺は会長の姿を探した。

 会長によると駅前のコンビニ付近で待っているということだったのだが……。


 「ぶっ!?」


 ……見つけた。同時に、吹いてしまった。

 「何だあれ……」と怪訝けげんな視線を送っていると、会長も俺の存在に気がついたらしく、「翔くーん!」と笑顔で駆け寄ってくる。

 

 「あの、会長……? その格好は……?」

 「あ、これ!? ふふん、良いでしょー! 今日のためにわざわざ買ってきたんだ!」

 「そ、そうですか……。これはまた斬新な……」


 会長はメイド服だった。

 しかもポニーテールでもツインテールでもなく、髪の束を何本もつくり、それを乱反射のようにさまざまな方向に流してある……そんなよく分からない奇抜きばつな髪型をしていた。

 顔には白粉おしろいが塗りたくられ、はたから見たら完全にヤバい人と化していた。……この人の知り合いだと思われたくない。

 ていうか、この格好はどう考えてもダメだろう。

 これを見ればデートが失敗するのは必然だし、右京との仲は確実に引き裂けるだろうが、会長が恥をかくのはやはり見過ごせない。

 しかし素直に「その服、変ですよ」などとデリカシーのないことを言うこともできず、どうしたもんかと悩んでいると、会長が腰回りのフリルを引っ張って言った。


 「でもこれ、なんか動きにくいんだよね……。髪型もなんか違和感あるし……」

 「……! そ、そうですよ! 辛い思いしながらデートしたって楽しくないですよ! ここは服装変えるべきかと!」

 「でも、最初のデートは大事だって言うしなぁ」


 それが分かってるなら何故そんな格好で来るのだろう……。

 今日の格好の理由を聞いてみると、とある少女漫画に『初デートでは相手の印象に残るようにすることが大切!』と書かれていたのだそうだ。

 会長は少女漫画を読まないほうが良いかもしれない……。

 それに印象には残るだろうが、絶対に恋愛対象から除外されると思う。


 「会長、今日は俺が服選びましょうか?」

 「え、いやいいよ! これで右京くんを夢中にさせてみせるから!」


 ムキになってそのまま水族館に向けて歩きだそうとする会長の背中に、ボソリと小声で。


 「……そういえば俺、右京の服の好み知ってるんですよね」

 「ほら翔くん何してるの!? 早く服屋に行くよ!」


 クルリと踵を返し、会長は水族館とは反対方向にある服屋に向かって歩き出した。

 ……最近、会長の扱い方が分かってきたのかもしれない。



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 伏見ダイヤモンド

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