吐き倒れ韓国

あゆみ

吐き倒れ韓国

 20代のとき、当時好きだった人と韓国のソウルに行った。


 1泊3日の弾丸旅行。私は仕事に忙殺されてなかなか休みが取れなかったので、「この日程なら行けちゃうじゃん!」と、嬉々として予約した。


 飛行機は深夜発で、着いたら当然のごとく早朝。お店もほとんど空いていないので「この時間からいったい何をするんだい?」という感じ。


 そして季節は冬。韓国は東京よりも寒く、分厚い雪が積もっていた。普通のタウンブーツを履いてきてしまったので、つるつるに滑って歩きにくかった。


 彼は何度目かの韓国なので、わりと勝手を知っている様子。当時は日本円高・韓国ウォン安だったので、

「韓国のメガネは質がいいんだよ〜」

 といいながら、新しいメガネを安く買っていた。


 そのあとは免税店に行き、その中の飲食店でビビンパを食べたあと、買い物。そして事前に予約していたアカスリへ行った。


 アカスリは男女別室で行われるので、入り口でバイバイしてそれぞれ案内された部屋へ。ヨモギ蒸しで冷えた体を温めて、ものすごく熱い風呂に入らされ、熱気で汗だくのフラフラになりながらアカスリ台に上がる。


 黒いスケスケの服を着たマッサージ師のおばちゃんに体をすられながら、どんどん気持ち悪くなる私。あれ、おかしいな……。途中で「風呂に入ってきて」と放出されるも、湯船でもどんどん気持ち悪くなる。とうとう吐き気をもよおしてきた。

「これはさすがにおかしい……倒れる……!」

 吐き気が強すぎてもう限界だったので、日本語の通じないおばちゃんに「ごめん!」とジェスチャーしながら、勝手に外に出てロッカーへと向かった。


 しかしロッカーで倒れ込んでしまい、10分くらい動けず。その後なんとか起き上がってトイレへ行き、ゲロゲロと吐いた。

 なんとか身支度をしてロッカーを出たら、先に上がっていた彼が憮然とした表情で待っていた。そりゃそうだ。すでに30分は待たされている。

 しかも私はケータイを海外ローミングしていなかったので、連絡がつかない状態だった。


「本当にごめんなさい……」

 と謝りながらも、一人ではまったく歩けなかったので、彼にタクシーを拾ってもらって一緒にホテルへ帰り、ベッドにダイブした。そしてそのまま動けず。


「ああ……1泊3日しかないのに、時間を無駄にしちゃったなあ。お昼に食べたビビンパのイカが透明だったのが怪しいなあ。迷惑かけちゃったなあ……」

 などとクヨクヨしながら、気づいたら寝ていたらしい。

 次に目が覚めたときには、彼が薬局で薬を買ってきてくれていた。

「韓国語の説明がまったくわからなかったけど、お腹のあたりを指していたから、たぶん大丈夫だと思う」

 という説明を受け、ものすごく不安になりながら謎の薬を飲んで、また寝た。


 気づけば2時間ほど熟睡していたらしい。起きたら体調は驚くほどよくなっていた。なんだこの薬!効きすぎだよ!でもこれなら歩けるし、食事もできそうだ。

 その足で夜の街に繰り出し、焼肉を食べた。胃の回復、はや!

 その後は普通に夜市を楽しんで、ホテルでやることをやって寝た。


 翌日もいろいろ楽しんだはずだが、初日に吐き倒れた印象が強すぎてあまり覚えていない。人生で初めてカジノに行き、2,000円相当を5,000円相当に増やして食事代を浮かせた記憶はある。


 そうして1泊3日の弾丸旅行はあっという間に終わり、私は帰国したその足で出勤した。彼は休みだった。本当にうらやましい。


 すごく楽しかった。

 でも欲をいえば、この出来事を誰かに言える関係性でありたかった。


 一抹の寂しさを振り払いながら、私はスーツに着替えて更衣室を出た。

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吐き倒れ韓国 あゆみ @ayumi_tomo

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