投稿動画:リモート座談会

桜盛鉄理/クロモリ440

投稿動画:リモート座談会

 この投稿動画はリモート座談会の様子である。参加しているメンバーは投稿者であるA子、その友人のB子、C子、D子の4人である。4人は小説投稿サイトで知り合った友人同志だが直接会ったことはない(顔も動物のスタンプで隠している)。


 宅飲みを兼ねてのリモート座談会なのだが、最近B子が酔って他のメンバーを誹謗中傷することが多くなり、投稿者のA子はその証拠をビデオに撮っておくつもりだったのだという。

 そしてこの日もお互いのノートパソコン越しに和気藹々と始まった座談会だったが、次第にB子は他のメンバーに絡み出した。


「だからぁ、D子の話はいつもどこかでBL入ってくるのがおかしいって言ってんのよ」

「B子の好みで小説書いてるわけじゃないから」

「それが伸びない言い訳? 苦しいな~」

「もういい! ……ごめん落ちるわ。もう来ないから。じゃあね」

 そう言ってD子はリモートを抜けてしまった。

「えっ、D子? ええっ?」

「あははは~負け犬脱落~」

「B子、いい加減にしなさい。飲み過ぎよ」

 年上のC子がB子をたしなめる。

「C子もせっかくの恋愛ジャンルなのに、暗い話ばっかり書いてんじゃないわよ。読むほうもだんだん滅入ってくるわ」

「今度はこっち? やれやれ、とんだとばっちりね」


 ため息をついて首を振るC子。堪らずA子もB子を問い詰める。

「もういい加減にして! B子、どういうつもりなの」

「ふふん、そんな良い子ぶってるけどあたしA子にもずっと言いたいことがあったのよ」

「何よ、藪から棒に」

「あんた(A子の本名)でしょ?」

「えっ? もしかして……B子は(B子の本名)なの?」

「そうよ。あたし昔からあんたのこと嫌いだったのよ。いつも私のものを横取りするから。今だってあたしの小説を丸パクリして。プライドは無いのかって言いたいわ」

「何言ってるのよ。お約束のテンプレじゃないの」

「二言目にはテンプレテンプレって言ってお茶を濁すけど恥ずかしくないの? そのくせ書籍化? ふざけるんじゃないわよ」

「それは関係ないじゃない」


 A子の声を無視してB子が喋り続ける。

「だいたい昔からそうだった。あたしが同じ事をしてもいつも(A子の本名)だけ誉められて、あたしの好きだった(個人名)くんとも相談もなしに勝手につき合い出して」

「相談って何よ。あっ、(個人名)くんに呪いの手紙を送ったのはもしかして……」

「あれは熱烈なラブレターよ! だいたい読まずに捨てるなんてあんまりよ」

「血文字で書かれた手紙を読もうなんて思う人いるわけないじゃない! 馬鹿じゃないの」

「うるさいうるさい! ほーらやっぱり(A子の本名)は友達の振りして影であたしを馬鹿にしてたんだ。許さない……。でもいいわ。そのうち(A子の本名)も不幸に襲われるようになるんだから」

「不幸? なんのことよ」

「そうね、もう言ってもいいか。あたし(A子の本名)のマンションをこの前突き止めたのよ」

「えっ?」

「それで玄関ドアの脇の盛り塩に豚の血で錆びさせた釘を混ぜてやったのよ。どう? 今更どうにもならないけどね。呪われたらおしまいなんだから。あはははっ、ざまあみろ!」


 高笑いするB子だったがそこでA子が言う。

「何言ってるの? 私の家は一軒家だし盛り塩なんてしてないわよ?」

「えっ?」

 一瞬の沈黙が場を支配する。

「おまえか……」

「えっ?」

「おまえがやったのか。おまえがあの釘を入れたのか……見つけたぞ、見つけた……」

 地の底から届くようなC子の声がパソコンのスピーカーを通して聞こえてくる。

「えっ? まさかB子が行ったのは……C子のマンション?」

 A子のつぶやきに答えるようにC子が言う。

「私の名前も(A子の本名と同じ)だ。おまえのせいで私は交通事故にあってそのせいで妊娠中の子供が流れて、そのせいで夫と離婚させられてそのせいで仕事もクビになって……」

「し、知らない! そんなことあたし知らないわよ!」

 C子の雰囲気に呑まれパニックになったB子が叫ぶ。

「許さない……呪ってやる……呪ってやる呪ってやる呪ってやるおまえも呪い殺してやる! 許さない許さない殺してやる殺してやる呪い殺して……」

 そう言いながらC子は部屋を飛び出していく。はずみでノートパソコンが座卓から落ちてひっくり返る。

「どうしよう、どうしよう! どうしたらいいのよ!」

「C子? ちょっと、C子!」

「……テグネタアボノディカエレパサロニアロシュタヴェリアルヴェルセブレブウーベシュルーセフェディアボルスアソナンス! いにしえのソロモンの約定に従い地獄の門をくぐり我が前に現れ出でよ! 我が命を贄として力を貸せ! 憎き者に永劫の苦しみを与えよ! エロイムエッサイム我は求めうったえたり……」

 隣の部屋からC子の唱える呪文が逆さまの画面の向こうから聞こえてくる。それにあわせてC子の部屋の照明が点滅し出す。


「ちょっと! C子? C子! 何やってるのよ! やめて……えっ? 何で急に灯りが、きゃあっ!」

 B子の部屋の照明もシンクロするように点滅し出すとついに両方の部屋の照明が消える。パソコンの画面の光だけが反射して青白く映っている。

「……何よこれ? どういうこと……えっ、誰か入ってきた? ……誰? えっ? きゃあああああ! ごめんなさいごめんなさいゆるしてくださいゆるしておねがいだからゆるし……あっ……ああああああ!」

 パソコン越しのB子の絶叫が止むとA子の部屋にも沈黙が落ちる。

「えっ? え、どうしよう、これ? どうしたら……と、とにかくここにいたら駄目!」

 言いながらA子も部屋を飛び出していく。


 誰もいなくなった部屋でも、カメラはまだパソコンの画面を写している。

 そしてこのあとパソコンの画面には不可解なものが映し出される。それが何を意味するものなのか、まずは一度見ていただこう。電気が消えたままのB子の部屋に注目していただきたい。


 B子の部屋のほの暗い画面が映し出されている。

 そして部屋の中を音もなく移動する白い人影らしきもの。

 そして次の瞬間、パソコンの画面をC子と思われる無表情な女の顔が逆さまにのぞき込む。



【REPLAY】

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