第16話 令嬢、引きずり出す。

「あのね!全部丸聞こえ…ナレーションになってない心の声もゼンブシッテルの!私のオムツ替え見ていやらしい事考えてたでしょ?!私のドレスの隙間から谷間が見えてお宝認定したでしょ?!いつも私に見惚れて大喜びしてっ!ずっと黙ってたけど……、全部バレバレなんだからね?!どれだけ恥ずかしい思いをした事かっ!自分のナレーション、初めから全部思い返してごらんなさいよっ!」


 恥ずかしさと、焦りと、うまくいかなかったらどうしようという思いが…ついつい強気の口調になってしまう!!


 ヤバイ…嫌われたら、ど、どうしよう?!


《ッ、ちょ…、はい、はい?!》


「全部知りたい、見ていたい……気持ちはわかる!!でもね、私はのぞかれるだけの人生じゃなくて…一緒に並んで、一緒に時間を過ごして、一緒にいろんなことを楽しんだりして生きたいのよっ!私だって知らないこと知りたいし、見たいんだからね?!」 


 だ、大丈夫、大丈夫よ!!


 だってナレすけ…か、要君はちょっとしたことでくよくよしがちで子供っぽくてエエカッコしいでエロくてムッツリでヘタレ寄りで真面目で一生懸命でわりと考え無しで嫌な事からは目を背けるけどねちねちといつまでも気に入らないところに固執して文句言うタイプじゃないしいいところを探してべた褒めして夢中になってるうちに怒りを忘れて調子に乗っていかがわしい妄想が始まって一人ご満悦に至るような穏やかな人!!!


 今回だって、予想外のことが起こっても・・・だ、だだだ大好きなあたしアストリットがいるんだから、話しかけてくれているという喜びで、気の強そうな態度というマイナス要素をスルーしてくれるに違いない!!


《で、でも、僕はただのナレーションで!登場人物じゃないっていうかっ!?》


「貴方のスキルはね、〈ナレーション〉なの!私の事をナレーションするのに必死過ぎて気付いてないみたいだけど、貴方も私も、この【アナくれ】の世界の登場人物なのよ!」


《え、ええ?!ぼ、僕が、登場…人物?!》


「私が頑張って、必死になって悪役令嬢の役を降りたように!貴方もナレーションに役目を降りたら、いいの!」


《そ、そんな事って…?!》


 ううっ!!!

 絶妙な慎重派っぷりがわりかし邪魔をするぅううううううううううううう!!!


 もどかしい、このやり取りがむずむずする、ぐじぐじうだうだ言ってないで…さっさと現状認めてとっとと覚悟決めてちゃっちゃと進めてくんないかなあ、こっちもわりとかなりテンパってて、なにげにいっぱいいっぱいなんだからね?!


「…いい加減私に告白しなさいって言ってるのよっ!好きなんでしょ?!あたしの事っ!」


《す、好き、好きスキスキスキ好きすぎます、ひゃい!!!》


 ちょっと、いやかなり情けないけど、本心丸出しの告白、キタ━━━(≧∀≦)━━━!!!!


 ぅうう…、伝わらないこと前提の、一方的な好意のダダ漏れじゃなくて……、私本人に向かって、私に伝えたい気持ちと一緒に聞こえた・・・告白。


 うれしいけど、うれしすぎるけど!!!

 は、恥ずかしすぎてぅわあああああアアア!!!


 だってさ、あたしリアル告白なんて初めてでさ?!

 明日香のときから嫌われ傾向で、人の恋愛を穏やかに微笑んで見送ってばかりで、自分はず――――――――――――――っとおちゃらけ担当で、全部エロ変換で、あ、アアア!!!


 どうしよう、恋をする、恋愛をする、愛を受け取るって言うのは、こうもこんなにこんなにも照れてしまうものなんですね?!


 はぅ、はう、はぅううううう!!


「とりあえず…私の事、抱きしめに来なさいよ!寂しいんだからね?!こう見えてもっ!!誰かさんが見てるだけで、独り言言ってるだけで、ちっともかまってくれないから!!」


 ど、どどどどドドドどうしよう、どこ見て話したらいいのかわからない!!!


 恥ずかしさをごまかすためについつい元悪役令嬢という立ち位置が…顔をにょきにょき出して、めちゃめちゃ強気の発言にッ!!!

 私、普段はみんなのドヘンタイを優しくまろくほのぼのと包み込むような癒し系(時々突っ込むクセあり)なのに!!!


 な、なんでこうなるの~!!!


 《真っ赤になって力説しているアストリット……生ツンデレだ、かわいすぎる、抱きしめていいって言ってる、いいの?!》


「聞こえてるんだってばっ!あーも―!早くこっちに来なさい!」


 だ、ダメだ!!

 心臓がドキドキしすぎて、うう、胸が、苦しいよぅ…。


 《元悪役令嬢は、この先…僕が!必ず幸せにすると、決めた!》


 ま、まずい、ナニ、これ…、ちょっと、過呼吸気味、かも……。


 《僕はナレーションの役目を放り出して、愛する人の元に…!》


 や、ヤバイ…、なんか目の前が、かすんできたような…、ああ、なんか、ぼんやりとした影が、私の部屋の壁に生えている、ぷりぷりとした尻を…さえぎって……。


「ご、ごめんね?!えっと、そのう…、あ、アアア、愛しっ、うわあ、かわいすぐる、はぅう…♡生あちゅたんまじカワユス!きゅぅうん♡はう、はぅう♡スキ、スキスキだいちゅき♡」


 ああ・・・、私の、目の前に。


 よ――――――――――――――――――――く知っている、かなめ君の姿が。


 生で見ると、わりとやっぱりかなり相当、イケメンだぁ・・・。

 でも話してる言葉は相変わらずのへっぽこ・・・。



 ふふ、よかった、ぜんぜん・・・かっこよくない。


 コレなら、私・・・・・・。



「思ってる事、全部口にしなくても大丈夫だから!いくらイケメンだからって、あんまり残念過ぎるセリフばかり言ってると…き、キライになっちゃうから気を付けなさいよっ!ちゃんと人間になったんだから…きちんと、その口で!私への、愛をっ!伝えてくれなきゃ、ダメなんだから、ねっ…」



 きっと、必要以上にいい格好を見せようとか、背伸びして本音を隠すような・・・つまんない、関係性には・・・ならないですみそう・・・・・・。



「…僕は、この先必ずアストリットを守り続けると心に誓って、そっと桜色の唇に…キス………」



 ・・・・・・かなめくんが、なにか。


 ・・・・・・・・・言ってる・・・けど。




 ・・・・・・、・・・・・・・・・ふぅん。

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