五日目

今日はトラウマを抱えることになった。

【痛客】まさかいきなり出会うとは思ってもみなかった。

昨日に続き、初回のテストに合格し、初めて初回のお客に付けてもらった。

初めての初回で緊張していたこともあるが、とにかく酷かった。

初回の見た目は、だいたい30代中盤ぐらいでスタイルは悪い、明らかにホスト慣れしてそうな見た目で、着いたホストを品定めするように見る。

手が震えて、グラスに注ぐ水が揺れる。

それからは何を話したのかも覚えていない。

会話を発展させようとするが、帰ってくるのは当たり障りのないようなことばかり、少し踏み込んだことを聞いても、受け流される。

会話には自信があったが、まったく歯が立たない。

途中からその初回客は、化粧を始めた。

そこで一度心が折れた。

しかし、食らいつかなければいけないと思い、何とか話しかけるが、すべて空回りに終わる。

内勤が僕の肩を叩いて、僕の時間が終わったことを教えた。

最後に、場内指名をお願いするがため息をつかれて、目も合わせようとしなかった。

頭が真っ白になって、お礼を言って席を離れると、社長に呼ばれた。

内容は、あの客は特に難易度が高いこと、全く気に病む必要はないこと、いい経験になったという旨のことを言ってもらったが、悔しかった。

この場にいるのが、苦しく逃げ出したくなった。

後から僕と同じように初回に着いた先輩が言うには、その人はテーブルマナーを確認したのち、そのホストが新人ではないことが、指名の条件だったらしい。

万が一にも最初から僕に希望などなかったらしい。

とにかく疲れた。

というか、そんな風にホストに来て何が楽しいのかとおもった。

やはり救いようのないような人間が金銭を支払って若い男を求めるのは、見ていて苦しい。

人間関係を続けていく上で、どちらか一方が金銭を使うことで成り立つ関係ほどいびつなものもないだろう。

その後は、先輩ホストが卓を盛り上げて、その初回客も楽しそうに笑っていた。

なんだここは、と思った。

僕はここで何をしているんだと、自分の存在を否定された気がした。

営業が終わり、ソファにうなだれて、体がどうしようもなく重く、自分はホストが向いてないのかもしれないなと自己嫌悪になる。

新人ホストがやめていく理由がわかった気がする。

先輩たちの接客を見て、自信を無くすというのは、新人ホストの登竜門なのかもしれないと思った。

うなだれている僕を見て、Mさんがご飯に連れて行ってくれた。

そこでは、かなり難しいアドバイスを受けた。

まず、今のままでは絶対に売れないこと、キャラとしてどこかぶっ飛ばなくてはいけないことを指摘された。

なんだそれ、というのが率直な感想だった。

昨日からずっと頭が回らなくて、苦しい。

もうボロボロだ。

年齢は言い訳にならないかもしれないが、20歳でこんな経験しているのは少ないのではないだろうか。

ここで逃げても自分にはまだ先がある。

だけど、今逃げてチャンスはやってくるのか。

また挑戦したとしても、逃げ出すんじゃないのか。

だめだ、深く考えるべきじゃない。

まずはやめないこと、まずは続けること。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る