四日目

四日目は初回のテストを行った。

同期のUを姫に見立てて、卓に着くところから、テーブルマナーと会話のテンポと発展を見られて、一通り終わると、アドバイスや改善点が述べられる。

正直、男相手に実践同様にするのは無理がある。

Uは僕よりも男相手に接客をするのに抵抗があるらしく、なかなか会話を発展させようとしなかった。

その後はヘルプの研修にも受かり,どんどんと卓に着いた。

席に着き、テーブルマナーだけは頑張ろうとするが、実践は難しく、会話に参加しながら、こなすのは神経を使う。

結局、三卓ほどついて、営業時間は終わったが、その時には疲労困憊で、頭が回らなくなっていた。

しかし、ホストは終わった後が重要で、まずは着かせてもらった卓の担当ホストに感謝し、アドバイスを聞きに行く。

テーブルマナーのダメ出しが多く、気が遠くなるような気がして、ドッと疲れた。

営業終わりは掃除をして、やっと一息がつけると思ったが、昨日着いたベテランのT先輩がご飯に誘ってくれた。

断るわけにもいかず、連れて行ってもらう。

時刻は深夜二時になっている。

外に出ると、アフター中のホストや、キャバのキャッチ、若すぎる女を連れた剥げたおっさん、いずれも水商売の匂いがする人間ばかりだ。

その先輩には、すし屋に連れて行ってもらった。

回らないすし屋で、普段は入らないような場所だった。

そこで、様々な話を聞いて、やる気を見せることで、ヘルプに着かせてもらう機会をもらう。

現場営業だと考えればこれも新人ホストの仕事の一環だと考えると、想像以上に体力がいると思う。

そのT先輩には、疑問などをぶつけてみた。

まず女の子たちがどのように、お金を思ってくるのか、またそれに対して先輩がどのように持っているのか。

先輩は爽やかな笑顔で、こう言った。

パパ活とか水に落として、稼がせればいいんだよと言った。

瞬間、血の気が引いた。

そうか、ここにいる人間は壊れているのが当たり前なのかと思い出した。

研修でも、内勤がここに金を持ってくる女の金は、汚いおっさんのちんぽを咥えて持ってきた金かもしれないことを忘れるなと言われた。

そうだ、この夜の街はどこまでも汚いことで成り立っているんだと感じた。

目の前の先輩を見てると、いかにも爽やかで清潔感に溢れていて、そのギャップで怖くなる。

世の中の悪人は、善人の顔をしている。

食事が終わり、店を出た後は、店舗に戻り一人で時間を過ごした。

空気が悪いのか、起きてからずっと喉が痛く咳が止まらない。

正直、もうやめたい。

自分の入ってはいけない世界のような気がして、戻るなら今なんじゃないかとも考える。

しかし、ここでやめたら面白くないと思い、踏みとどまる。

時間になり、駅に向かうと、建物に反射する自分が信じられなくて、一人で笑う。

人目も気にせずに高らかに、歌舞伎町一番街のいやらしいほどギラついたネオンの明かりに照らされて、大声で笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る