二日目

目が覚めたとき、時刻は3時半だった。

日は傾き始めていて、毎日日光を浴びるように意識していたため、起きてすぐに軽く外に出て散歩をした。

もともと生活習慣は狂っていたため、この時間に起きたことの罪悪感などは特になかったが、自分が明るい時間に働いていないということが信じられなくて、笑えてきた。

時間もなかったので、シャワーを浴びて、三週間前の成人式できたスリーピースの黒スーツに身を包んで、軽く香水を着こんだ。

家に出る前に、昨日教えてもらったヘアサロンに予約の電話を入れて、靴を鳴らしドアを開けた。

そもそも僕は新宿や都心に遊びないくような人間ではなく、読書や映画が好きな平凡な男で、水商売に遊びに行ったことも、女遊びもほどほどにしかしたことがなかった。

そんな自分が歌舞伎の世界に入ったことが信じられない。

二日目も引き続き研修が続く、座学ではなく実際にテーブルマナーをやりながら覚えていく。

内勤が姫役をやって、実際に本番に近づけて、覚えていく。

先輩の話によると、ここまで新人に教育をするところは、珍しいという。

普通は見て覚えていくか、実践の中で怒られながら身に着けていくというのが普通らしい。

実際に、僕がいる店も最近までは新人研修がなかったらしいが、あまりにもやめていく新人が多いため、これを取り入れたという。

僕が入った時に、ほぼ同時期に入った同期を抜けば、半年前に入った人が新人なのだそうだ。

僕らの間には、15人ほどが入り、2か月以内にやめていったという。

僕が思うに、店側は新人にやめる言い訳を作らせたくないのだろう。

運営側としても最大限のバックアップをしたと言いたいんだと思う。

二日目は営業中の店舗を見て、先輩がどのように立ち回っているのかも見ながら、過ごした。

今まではただ、楽しそうに見えた卓でも、先輩の動きの気配りの多さに少しだけ気づくことができた。

会話の途中で不自然にならないように、酒を継ぎ足したり、姫が煙草を吸い終えた瞬間に灰皿を素早く変えることも、自然としてる。

そのうえで、ノリを合わせ、卓を盛り上げて、積極的にお酒を飲み進めて単価を上げるということをしている。

これほど難しいことを毎日行っているのかと驚愕した。

その日の営業終わりの後は、昨日の先輩の助言通りに、気になる先輩にご飯に連れて行ってほしいということを言った。

先輩は乗り気で僕を連れて行ってくれて。

そのMさんは店で今一番初回に強いらしく、たくさんのことを教えてくれた。

Mさんが言うには、こうして先輩に教えてもらった店もアフターで姫と一緒に来ることになるから覚えておけと、教えてもらった。

そして、どうして先輩と仲良くしなけらばならないかもこの時わかった。

ヘルプはその担当とどれほど仲がいいのかが重要になってくるのだ。

ヘルプは自分の単価に繋がらないが、担当を立てて酒を飲んで、担当の売り上げに貢献しなければならない。

それは逆もまた然りで、自分が担当の姫が来たときは、仲のいい先輩が僕を助けてくれる。

そうして、協力品しながら単価を上げて行かなけらば、いけないと教えてもらった。

Mさんはそれが基礎にあって、テーブルマナーなどもそつなくこなしてからがホストとして始まりだという。

そして、僕の二日目が終わった。

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