20歳のホスト戦記

倉住霜秋

一日目

今日は僕のホスト人生の記念すべき一日目だ。

僕は今大学二年の春休みに入ったばかりで、三週間前に成人式を行ったばかりだ。

【水商売】僕とは無縁な世界だとばかり考えていたが、まさか働くことになるなんて想像したこともなかった。

イメージで言えば、暴力や犯罪が蔓延したアンダーグラウンドな場所に、若さを浪費する若者が惰性を貪りあっているようなところという感じだ。

しかし、バイトをやめたばかりで、先月から苦しい生活費考えると、再びバイトを探すよりも、とりあえずは入会金などがもらえるホストは魅力的に見え、心労も少なそうに感じた。

その日の昼頃、ベットの上で目を覚ましたとき、ついにこの日が来たと思った。

自分が取り返しのつかないことに片足を突っ込んでいるような気がして、飛んでしまおうかとおも考えた。

そんな思いを噛み殺して、シャワーを手早く浴びて、準備をして、自転車を走らせた。

電車に乗って向かうのは、日本のホストの中心地、【新宿歌舞伎町】だ。

野心と恐怖心を握りしめて、眠らない街へと挑戦が始まった。

喉から出そうな心臓を押さえ込んで、エレベーターのボタンを押して、自分の店がある階へと着いた。

何も考えないように扉を空けて、一番近くにいた人に挨拶をして案内をしてもらった。

僕を雇った支配人が出てきて、まずはヘアセットの場所を教えてもらった。

化粧で顔が白く、体の線の細い長身の男だった。

いかにもホストという見た目で、自分がこのような人と関わっていることが信じられない。

それからは場所だけ教えてもらい、ヘアセットをして、店舗に戻った。

美容師の人にどのように注文をしていいのかわからなかったため、「おまかせで」でと頼むと、微妙な仕上がりになった。

店舗に戻ると、髪かださいと言われて、支配人に少し手を加えてもらった。

それから一人の内勤から研修を受けた。

研修といっても、座学のようなもので、その日の大半はホストの基礎や店の雰囲気を教わって終わった。

座学は苦痛で、僕は高校生時代の授業を思い出していた。

営業中は大音量の店内BGMとライトが落とされ、破裂するような笑い声や話し声が聞こえてくる。

僕に研修を教えていた内勤が、これからいいものが見えると言って、僕をホールの中心へ連れていく。

店内が一層暗くなり、ひび割れたマイクで、オリジナルシャンパンが入ったことを告げた。

【シャンパン】まさか間近で見ることになるとは思ってもなかった。

シャンパンを入れた卓に、ヘルプと手の空いているホストが集まり、メインのマイクを持ったホストがコールを始める。

「いぃよいしょぉぉ!!」から始まり、それに呼応して、周りのホストも合いの手を入れる。

その時、改めて僕はホストの世界に入ったんだなと実感した。

そして、営業が終わり、トイレ掃除と流れを教えてもらい、その仕事は終わった。

しかし、新人ホストの仕事は実はここからが始まりだといっても過言ではなかった。

【先輩との食事】これは必ず、重要な要素の一つだ。

終電もなくなり、深夜2時の歌舞伎町を歩いて、先輩にご飯を奢ってもらった。

それは新人ホストにとって、有料級の時間で、先輩が気を利かせてくれて、僕をご飯に誘ってくれた。

そこで、売れるためには何が必要か、先輩たちが何を考えて仕事をしているかを聞いていくのが、重要になってくると、その日は連れていってくれた先輩は言った。

その先輩が言うには、先輩と片っ端からご飯にいくことが重要だと言う。

それからは僕は始発を待たなければならなかったので、そのナンバーに入っている先輩の話を聞いて時間を過ごした。

5時の新宿、道端には片言のマッサージの客引きと、誰かが吐いたであろう土砂物がそこらにある汚れた街。

欲望渦巻くこの眠らない街に僕は来たんだと思うと、乾いた笑いが沸き起こってきた。

始発の電車に揺られ、家に着いたときには極度の緊張が溶けて、気絶するように眠りについた。

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