好きな人は、足がはやい《短編》

亜夷舞モコ/えず

好きな人は、足がはやい

 彼と出会ったのは、小学校だった。

 同級生だったの。

 そういう時、モテる子っていうのは、やっぱり運動ができる子。足が速くて、格好良くて、勉強もできて、友達も多くて、格好良かった。本当に大好きなの。

 私、本当に頑張った。

 近づきたくて、友達になりたくて。

 友達になろうって言ったら、「僕は友だちだと思っているけど?」って。なんて格好いいんだろう。好き。好き。大好き。

 運動も頑張ってみたんだよ、それでも早くは走れなかったし、勉強も――全然だったんだ。だから、かわいくなろうとした。

 かわいく、必死にかわいく。

 妬まれても、嫌われても彼に尽くした。

 中学校でも、私の行いは変わらなかった。

 周りからは、私が本当に彼の恋人みたいに思われてたみたい。

 高校受験も、彼と同じところに必死について行った。走っていった。

 本当に血のにじむ努力をしたの……。


 そんな彼は、勝手に恋人を作ってた。

 夏の陸上競技大会を前に、練習にもグラウンドにも熱を持ち始めた季節。私よりかわいくない女を好きになったみたい。私には、何も言わずに付き合っていたみたい。

 私は、彼を家に呼び出した。


 それが一昨日のこと。

 今もまだ彼はクローゼットの中。

 彼は、ずっと私のものになったの。

 彼の顔を眺めようと、クローゼットを開ける。

 夏の気温に、嫌な臭いが立ち込める。

 

 ああ、彼は――

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好きな人は、足がはやい《短編》 亜夷舞モコ/えず @ezu_yoryo

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