第35話 どっちも恋愛脳【マルティナside】

 空中に浮かぶ画面に、長い銀髪を持つ、エメラルドグリーンの瞳。


『前は、わたくしの圧勝でした……』


「はい」


 返事をしたキャロリーヌは、身に着けているPS(パワードスーツ)の『アージェン』の感触を確かめる。


 白色をベースに、要所をイエロー、レッドで塗装。

 いかにも量産機といった風格だ。


 マルティナは、シャープながらも装甲がある『ファントム・ブルー』だ。

 名前の通り、青系のカラーリング。


 言うまでもなく、シード枠だ。


に出場できたこと、おめでとうございます。わずかな時間で、どれだけ成長したのか……。見せていただきますわ』


「お願いします」


 ここで、放送による声。


『只今より、PSを出す! 全員、ルートから離れるように!』


「退避!」

「離れて!」


 デッキで、整備科の女子たちが離れる。


 最後まで見ていた女子が、右手で敬礼をしたまま、励ます。


「健闘を!」

「ありがとう……」


 今のキャロリーヌは、2mの巨人だ。

 鋼鉄の手足と、胴体から腰まで覆う装甲。

 背中のメインスラスターが目立ち、その両手には武装。


 首から上の部分だけ出ているため、どこか記念撮影のよう。


 マーシャラーが両手で持つ光る棒を振り、ビーッ! ビーッ! という警報音、光る回転灯と共に、固定されていたハンガーの床が動き出す。


 両足の底がカタパルトに接続され、屋外にある演習場への進路ができた。


 メインスラスターがある背部でも、空母のように床がせり上がる。


『カウント開始! 5、4、3、2、1――』


 後ろに押しつけられる感触と共に、視界が広がった。


 前へ放り投げられたまま、空中で指定されたエリアの内側をなぞるように、低く飛ぶ。


 じきに、『ファントム・ブルー』も射出された。


 そちらは上空で停止したまま、低空をゆっくりと回っている『アージェン』を見下ろしたまま。



 ウ―――ッ!


 2人の力関係をそのまま示した構図は、試合開始によって崩れた。


 両手で標準的なビームライフルを構えていたマルティナが、下へ向けて狙撃。

 特徴的なビーム音と、青の閃光が、キャロリーヌへ向かう。


 動き続けているものの、上を押さえているほうが有利だ。

 地上でホバリングしつつ、上空のマルティナへの反撃は、当たらないどこか、プレッシャーにもならない。


 狙撃姿勢ながらも、マルティナはランダムに動き続け、狙いを絞らせず。


 短時間のブーストを駆使することで、緩急も。



 ◇



 右腕のビームライフルと、左腕にマウントした盾。


 白い量産機を見下ろしているマルティナは、疑問に思う。


 前のシミュレーションでは、火力重視。

 すぐに弾幕を張ったが……。


 屋外とはいえ、開けた地形でこそ、火力ビルドが効果的だろう?


 それなのに、最低限の武装だけ。


 ともあれ――


「このまま撃つのは、シルバーソードの戦い方ではありません、ねっ!」


 近距離でも使いやすいビームライフルを右手に持ちつつ、左手にビームソードの筒を持たせた。


 ダメージ交換でいえば、時間切れを狙ってもいい。


 だが、マルティナは専用機を持っているシルバーソード。

 量産機の新人に、穴熊のような戦い方をするわけには……。


 背中にある左右のウィングバーニアを広げつつ、そのメインスラスターを稼働させる。


 近距離にしたビームライフルで牽制けんせいしつつ、対地攻撃のようにヒット&アウェイを始めた。

 左手からも、青いビームソードが伸びる。


 顔を歪めたキャロリーヌも、それに応戦。


『ふっ!』


 シールドで身を隠しつつ、右手のビームライフルで撃ってくる。


 けれど、予測進路で当たるほど、甘くない。


 数回のパスを経て、『アージェン』のシールドは失われ、その代わりに黄色のビームソード。

 右手に持っていたビームライフルも切り捨てられ、たった今、投げ捨てた。


 それを見たマルティナは、『アージェン』の固定武装であるマシンキャノンの火線を避けつつ、短時間だけの小型ユニットを分離。


 3つほどの物体がそれぞれに飛び、細いビームを撃ち出す。


『くっ!?』


 詰将棋のように、回避できるエリアへ逃げ込んだマルティナへ、両手で構えたビームライフルの先から伸ばした青いソードで斬りつける。


 一撃目は避けられ、推力を活かしてのポジション替え。


 今度はビームライフルを手放し、片手のビームソードでなぞるように斬り捨てつつ、そのまま通りすぎる。


 ピ――――ッ!


『勝者、マルティナ!』



「格上でも、自分から攻めたほうが良いですわよ?」

『ありがとうございました』


 キャロリーヌは、笑顔だ。


 眉をひそめたマルティナは、何か言おうとして、思い直す。


 歓声を上げたギャラリーに、片手で応えつつ、自分のデッキへ帰還。


 前よりは、上達していましたわ。

 しかし、攻めっ気がないわりに、粘っていた?


 疑問に思いつつ、ようやく自由になったことで、あでやかに息を吐く。


 けれど、待っていた令夢れいむは、多機能のタブレットを見たまま、浮かない顔だ。

 

「悪いニュースがあるでー! 聞くか?」


「選択の余地がありませんわ! それで?」


 マルティナを見た令夢は、首を横に振った。


「背部のメインスラスターやけど、片方をやられたわ! さっきのキャロリーヌは、これを狙っていたんやろ……。チーム戦は捨て石が珍しくないけど、本戦に初出場であんたの戦力を削るだけとは」


「直りますの?」


「全体のパワーを落としてええなら……」


 つまり、修理したほうに合わせないと、バランスが取れない。

 

 スピード重視の『ファントム・ブルー』にとって、一番の嫌がらせだ。


「苦情を入れるか? 一応、レギュレーション違反や」


「冗談! とはいえ、彼らの恋愛ごっこのダシにされるのもしゃくですわ。どうせ、和真かずまさんとの対戦で、彼を有利にするため。……キャロリーヌさんのお目当ての男子と先に仲良くなるのも、いいですわね? わたくしが勝ったら、泊りがけの訓練ということで……。フフフ」


「ウチは、修理に入るわ」


 関わりたくない令夢は、待機状態の『ファントム・ブルー』に取りついた。

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