第25話 入学式で輝くシルバーソード

「結論から言うと、私がアレトゥーサに住み着き、そちらの艦隊システムを統括していました……。和真かずまと一緒に乗り込み――」

「え? 和真がいるわけが……」


 同席していたキャロリーヌの指摘に、シェリーはそちらを向いた。


「ここにいる和真ではありません。正しくは、平良たいら和真」


「なーんだ、それなら納得……うぇええええええっ!?」


 ノリツッコミをしたキャロリーヌだけではなく、俺も驚愕。


「平良少佐は、月面コロニーで戦死したんじゃ?」


「否定します。理由は省きますが、私と共にアレトゥーサへ合流しました。以後は偽名でヘビーキャルのパイロットを続け、寿命で死亡。それは確認済みです」


 淡々とした声で、伝説のエースパイロットの顛末てんまつが語られた。


 誰もが口を開けたまま、自分の考えをまとめる。


 爆弾発言をしたシェリーは、自分のティーカップでゆっくり紅茶を飲む。


 アリスが、それを補足する。


「平良少佐の名誉のために言っておくけど……。彼はちゃんと、月面コロニーで珠音たまね博士を迎えに来たよ? ただ、少し揉めてね……。ボクが残っていたことから、2人は先にマスドライバーを使ったのさ」


 なら、どうして珠音博士は合流しなかったんだ?


 そう聞きたいが、アリスの雰囲気がそれを拒んでいる。


 我関せずのシェリーも同じ。


 咳ばらいをした参謀総長は、話を戻す。


「興味深い話であるし、2人を疑ってはいないが……。これらは機密事項だ! 詮索や他へ教えることを禁じる!」


「分かりました」

「はい……」


 俺とキャロリーヌの返事で、参謀総長は頷いた。


 次に、対面で横一列に座っている俺たちを見る。


「アレトゥーサは、大破したまま、ニューアースから離れていく軌道へ移った。今後、あの姿を見ることはないだろう。……シェリー君には、気の毒だった」


「……いえ」


 否定しつつも、彼女は沈痛な表情。


 自身がずっと面倒を見てきた母船が、永遠に宇宙のどこかを漂い続けるのだ。

 無理もない。


 参謀総長は、話を続ける。


「ラファームの存在を明かしたのは、すでに2人と接触したから……。すでに想像がついているだろうが、マシンクリーガーとPS(パワードスーツ)は本質的に同じもの。具体的には、意思を持たないラファームのコピーを通し、人間の制御下に置いている。珠音博士はそれに適したハードとソフトの2つを作り上げたのだ」


 その末裔まつえいとも言える梨依奈りいなは、思わず立ち上がった。


「遺伝子を弄ったんですか!? ラファーム寄りにすることで!」


 対面で座ったまま、参謀総長が首肯する。


「人類が生き延びるには……それしかなかった。旧人類は、その意味でどこにもいない。まだ地球にいても、マシンクリーガーにおびえる彼らの文明レベルは石器時代か、良くて中世だ。我々が滅びれば、築き上げてきた全てを失う」


 彼にも、思うところがあるのだろう。


 目を閉じたまま、自分に言い聞かせるように、言い切った。


 梨依奈は正気に戻って、座り直す。


「すみません……」


「いや、構わん! 話が長くなったな? 奇しくも、ここに集まっている君たちは、人類を月面コロニーからニューアースまで導いた立役者の子孫だ」


 俺、梨依奈、キャロリーヌの3人を見た、参謀総長。


 再び、口を開く。


「SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)の3年間は、最後のモラトリアムだ。ラファームの2人も、一緒に入学してもらう! 君たちに情緒がなければ、長期的には人類を滅ぼしかねない」


「ボクは最初から、そのつもりだよ」

「私も、異存はありません」



 ◇



 かつての地球では、桜が咲いたらしい。


 PS学園の入学式で、選び抜かれた1年生が集まる。


 彼らはさっそく友人と集まり、情報交換を始めた。


「今年は、実力者が多いんだって!」

「へー」


「参謀本部にいる女子は、押さえておきたい!」

「主席だし、入学式ですぐに分かるさ」

「そいつ、エリートばかりの部隊指揮科だろ? 早く知り合わないと……」

「抜け駆けすんなよ? 誰かが交流を持ったら、紹介までは――」


 部隊指揮科のマークをつけた、新品の制服。

 ピンクにも見える赤髪ロングの女子が通りすぎた。


 自分が噂になっていることを知ってか知らずか、紫の瞳でチラッと見ただけ。


 童顔で、わりと身長があり、不思議な雰囲気。


 思わず見惚れた男子グループは、その隣に通信科のマークをつけた女子がいることに気づく。


 小柄で、銀色ロングと金色の瞳だ。


 アリスとシェリーの2人がいなくなってから、思い出したように誰かが叫ぶ。


「そういえば、通信科の入学テストで、艦隊レベルの制御をやってのけた女子がいたぜ!?」



 2人の女子と一緒に、男子がやってきた。


 その光景を見た新入生の1人が刺々しい視線を送るも、すぐに目を伏せる。



 生徒会長として準備する、部隊指揮科3年の風美香ふみかが、その男子を見つけて微笑んだ。


 小走りで駆け寄って、親しげに声をかける。


「両手に花ね、和真くん?」


「目立ちたくないのですが……」


 指を振った風美香は、和真の制服を示す。


「それがある限り、どこへ行っても注目されるわよ? 諦めなさい!」


 ウィンクをした風美香は、生徒会メンバーに呼ばれて、控える場所へ。


 思わず空をあおいだ和真の胸や腕の横には、シルバーソードが輝いていた。

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