第24話 宇宙の知的生命体が炭素生物とは限らない

『その女、誰ですか?』


 女から言われたくない台詞で、上位にランクインするだろう。


 中学生にして味わった俺は、別にキャロリーヌと付き合っていないだろ? という正論を言えないままで、正面から抱き着いてきた全裸の女子中学生と彼女が睨み合う図式に耐えていた。


 スッと離れたJCは、いつまでも耳に残る声で、キャロリーヌに問いかける。


「あなたは、誰ですか?」

「そちらこそ!」


 今のうちに俺は退避しようと思い、気配を殺したまま、ハンガーから出るドアへ――


「てええええああああっ!」


 聞き覚えのある可愛い声が響き、同時にショルダーアタックをする少女が1人。

 アウターで魔法使いのようなローブを着たアリスだ。


 全裸のままで吹っ飛ばされたJCは、もつれ合って宙を舞い、床に叩きつけられる。


 驚いたキャロリーヌは、目を丸くしたままで、思わず制止する。


「え!? ちょっ、ちょっと!」



 今の動きは、ものすごく見覚えがある。


 白いPS(パワードスーツ)と『シルバー・ブレイズ』も、アレトゥーサの居住ブロックで同じ格闘戦をしていたな?


 そして、この痴女と同じJCは、ハンガーに固定した『シルバー・ブレイズ』から出てきた。


 つまり――


 いや、よそう。

 俺の予想で皆を混乱させたくない。


「ちょっと! やめ……やめなさ――い!!」


 叫んだキャロリーヌは、マウントを取ったままで殴り続けるアリスを後ろから羽交い絞めに。


「止めるな! こいつは今ココで――」


 殺人現場になりかけたハンガーで、やられっぱなしだったJCが……。


 あ、全部見えた!


 急いで目を逸らしつつ、やはり同じ銀髪なのかと感心する。



 ◇



 俺たちは、立派な机についている軍人に頭を下げた。


 「うむ……。顔を上げてくれ。今回は、非公式の会合だ」


 再び見れば、左胸に色とりどりの小型ブロックが集まっている軍服を着た男は、疲れた様子。


「ひとまず、あちらの応接ソファーへ移ろう。私も話し方に悩んでいるから、お茶会と考えてくれ」


 ここは、ニューアース統合参謀本部。

 参謀総長の肩書を持つ男は、老齢だ。


 脇で立ったままの士官が、その発言を受けて、動き出した。



 ――15分後


 気まずい空気の中で、一流のスイーツと紅茶を味わう。


 リラックスした参謀総長は、ティーカップを置いた。


「すまないが、コーヒーを頼む! 君たちも注文したまえ」


 それを受けて、俺たちは次のドリンクを頼む。


 キビキビとお辞儀をした士官が、また動き出した。


 参謀総長は、俺たちを見る。


「さて……。SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)とニューアース防衛で活躍したそうで、本当にご苦労だった! 本来は君たちのような学生を出撃させるべきではないが……。この機会に、君たちと一緒にいるアリス君と、そこにいる……」


 顔を見たまま悩む参謀総長に、銀髪の女子中学生が答える。


「シェリーです」


「……シェリー君の2人について、教えたい。なお、今から話すのはニューアース統合軍のみならず、ここで暮らす人類を揺るがす内容だ。何かね、和真かずまくん?」


「俺が統合参謀本部付きとなったことに関係が?」


 大きくうなずいた参謀総長は、そちらの話題を片づける。


「先に伝えておこう! 君の二度にわたる活躍を認め、本日付で『特務少佐』とする。……実質的には変わらんが、『待遇』と違い、正式な階級だ。ゆえに、将校の軍服や階級章をつけること、身分証の提示が可能。ただし、訓練や士官教育を受けていないため、他の部隊への指揮権は持たない。給与や手当は、出撃などのフォローと考えている。PS学園でかかる費用についても、相談に乗ろう」


「職業軍人ではない代わりに、毎月の給料も出ないと……。分かりました」


 俺としても、高校生活を優先したい。


 首肯した参謀総長は、本題に入る。


「アリス君は、このニューアースを管理しているコンピュータ群を統括する存在だ。言い換えれば、月面コロニーから我々を運んできた母親のようなもの」


 のんびりした声が、それに続く。


「移民船団を管理していた頃よりも、だいぶ楽になったよ」


 次に、チラリと横を見る。


「それで、シェリーのほうは何をやっていたんだ?」

「すまないが、先に君たちの紹介を済ませたい」


 参謀総長の割り込みに、アリスは片手を振る。


「言われてみれば、そこからか……」


「アリス君は、地球にいた旧人類が接触した初めてのだ! 正確には波動のようなもので、それが物体に取りつくことで動けるようになる」


 嫌な予感がした俺は、横に座っているアリスを見た。


 その視線を感じたようで、こちらを見ながら説明する。


「ボクたちは、人類でいう女だけの種族だった……。ゆえに、今では『ラファーム』と名乗っている」


 向かいに座る参謀総長は、口を挟まない。


 アリスは、話を続ける。


「ある時、ボクらは存亡の危機になった。原因は不明だ。もはや記録を参照することもできないからね? その解決策で、全面戦争に入っていた機械生命体に宿ることが試された」


 まさか……。


 俺の顔を見たままのアリスが、頷いた。


「そうだ。今のマシンクリーガーと呼ばれている勢力は、ボクらの同胞の成れの果てさ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る