第20話 俺はお前たちにとってのシルバーソードだ

 ピピピ


 宇宙空間をバックに、明るい蛍光色。


 中央に捉えようと、必死に動き続けるレチクルだが――


 ビ――ッ!


 撃墜判定によって、その機体は動きを止めた。


 シミュレーションが終わり、通常モードへ。


 PS(パワードスーツ)の『エイジス』を装着しているコウは、嘆息した。


「ダメか……」


 2mほどの人間が、近づいてくる。

 同じ『エイジス』だ。


 肩をつかみ、接触回線。


 対戦していたデヴォンの声が響く。


『お前は、バカ正直すぎるんだよ! もっと相手の動きを読め!』

「も、申し訳ありません!」


 お互いに顔は出ているものの、宇宙用のパイロットスーツで、バイザーが下りたヘルメット同士だ。

 識別のため、派手なパーソナルマークがある。


 地上とは異なり、遠近感がつかみにくい。


 

 模擬戦をやると、和真かずまの異常さがよく分かる。

 彼に手も足も出なかったデヴォン中尉は、紛れもなくエースだ。


 コウは軌道上のステーションを目指しながら、尋ねる。


「中尉も『シルバー・ブレイズ』があれば、和真少佐に勝てますか?」


『あーん? 難しいな……。ほとんど未来予測をしているようだし』


 いつも傍若無人のデヴォンにしては、珍しい。


 その雰囲気を感じ取ったのか、デヴォンは話を続ける。


『シルバー・ブレイズに、その機能があっても……。逆に混乱するだろうな! 俺は嫌だ』


「自分は、あったほうが便利だと思いますが?」


 2機でフォーメーションを組みながら、デヴォンは呆れた様子。


『お前はな? 未来予測のタイプにもよるが、いちいち全ての可能性を教えてくるようなら、発狂しかねんぞ! それ以前に、監視されているようで気持ち悪い』


「そういうものですか……」


『あのスピードで判断しているのも、普通じゃない。お前は、オーソドックスに強くなれ! 少佐の真似をするな』


「了解」


 ステーションが見えてきて、誘導の光が伸びてきた。


 PSは自動的にコースへ乗り、相対速度を合わせる。


「コウ少尉、着艦します!」


 見る見るうちにステーションが迫り、開放されたハッチから、前後左右が人工的な風景に。


 奥のネットにぶつかり、減速しつつ、受け止められた。


 『エイジス』の両足で立つ。



 ◇



 ブリーフィングルームに、多くの人が集まった。


 正面に大型モニターと、隅に操作するデスク。

 後ろには座りやすいシートが規則正しく並び、1人ずつ座っている。


 大型モニターに、ニューアースと軌道上のステーションが記号として映し出された。

 加えて、ニューアースへ接近する軌道も……。


 コツコツと中央へ歩いた司令は、全体を向き、訓示する。


「諸君! 我々は移民船団のおかげで、今こうして、第二の地球にいる! だが、悲しいことに、途中で力尽きた艦も少なくない」


 指揮棒を伸ばした司令が、接近する軌道を示した。


「これは……移民船団から脱落した艦の1つ。タイタン級マザーシップ、アレトゥーサだ」



 タイタン級マザーシップ。


 かなりの大型艦で、一通りの機能を持つ。

 平たく言えば、この艦だけで、人類の復興ができる。


 むろん、かなり厳しいが……。



 思わぬ訪問者に、ざわつく面々。


 それに構わず、前に立つ司令が話を続ける。


「アレトゥーサの軌道は、ニューアースから外れている! 記録によれば、『エンジン不調により遅れる』として、それっきりだ! 単体でも循環した生態系と艦隊を持っていたことから、我々の先祖が乗っていた移民船団は先行」


 司令は、指揮棒の先で、アレトゥーサの軌道をたどっていく。


 とあるポイントで、ピタリと停止。


「我々は、この宙域で待ち受ける! アレトゥーサの現状を調べつつ、必要であればコースの変更や撃破」


 何か言いたげな雰囲気に、司令は片手を向けた。


「諸君の言いたいことは、分かる……。だが、アレトゥーサはこちらの通信に応じず、光によるSOSすら発信しない! ニューアースに病原菌などを持ち込まれたら、我々が危険だ! マシンクリーガーの前線基地になっている可能性も考慮すれば、破壊を前提にするべき。……現場の判断で生存者を救出する場合は」


 ――こちらの増援を期待するな!



 作戦名:シルバーアロー


 目標:ニューアースへの接近阻止


 戦力:宇宙軍の主力艦隊



 ◇



 ニューアースの地上から、いくつもの白い煙。


 後ろのブースターを切り離した宇宙艦は、軌道上に浮かぶ。


「艦内チェック、急げ!」

「第二種戦闘態勢を維持せよ」

「旗艦より信号!」


 その陣営は、戦艦、巡洋艦、駆逐艦。

 直掩ちょくえんのPSがフォーメーションを組み、飛び回る。


 皮肉にも、遅れて到着した移民艦は、かつての同胞たちに狙われることに……。


 そして、俺自身も――


『ご武運を!』


 ビ――ッ!


 カウントダウンが終わり、『シルバー・ブレイズ』が前へ加速。


 一瞬で、宇宙に投げ出された。



 遠矢の神にちなんだ作戦名、シルバーアロー。


 それとよく似た、シルバーソードを描いた機体で……。



 彼らは、どれだけ長い航海をした?


 先行した人類と再会する日を夢見た?


 だけど――


「俺は……お前たちにとってのだ」



 『シルバー・ブレイズ』が持つのは、対艦装備。


 機動兵器と戦いにくいが、どこを撃っても当たるアレトゥーサには必殺……。

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