第6話


 「小さい」、「貧弱」、「見栄えがしない」、「弱い」、「本当に弱い」、「だけど丈夫」、「だけど、一生懸命走る」……。人の私に対する評価というのはそんなところだった。客寄せパンダに祭り上げられてからはそれに、「可愛い」、「愛嬌がある」、「いつも元気」、「いつも頑張っている」、「いつだって前向き」「いつだって、一生懸命頑張って走っている」……。まるでアイドル。否、偽物なのに本物のスーパーアイドル……。それこそが、私…………。

 そして、私は今日も出走機に収まってゲートが開くのを待っている。

 それでも私は、走ることが好きだし、走ることを愛している。走ることは私の全てで、走ることの中にしか私は、ない。

我が種の本能とでも謂うべきものは人間が我々の血に施した呪いなのかもしれない。それを否定することは生きる為に食欲を否定し、遺伝子の船たる生物が性欲を否定するようなものなのだろう。

 私はこれまで百以上もの連敗を連ねてきた。これまで一度だって勝てたことなんてない。

だけど、それが今日じゃないなんて誰が謂い切れるの? 

 みんな、私を勝てるように――「怪我をさせないように」だけど――一生懸命お世話してくれているんだよ。

 だから…………、

 だから、私は…………。

 私だって、まだ負けてなんかいないよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る