④惨め

 映画が終わり、ソファの背もたれに持たれて眠っている蕾華の隣で、わたしは涙が溢れてしかたがなかった。

 歌姫と歌姫の幼馴染、怪人の三角関係を描いた物語で、一本目の映画のようにハラハラやコメディ要素は少なく、二本目の映画のようなギャグや感動ものでもなかった。怪人のことを思えば哀しいと思うし、もちろん、心を動かされるという意味では深く感動した。だけど、わたしにとっては涙を流すような話ではなかったと思う。

 だというのにわたしは、涙が止まらなかった。

 怪人は最後のシーンで歌姫の幼馴染を縛り付けて歌姫に自身への愛を誓わせようとし、拒めば幼馴染を殺すと脅した。歌姫は幼馴染を助けるために怪人にキスをし、そのキスを受けて怪人は歌姫たちを解放した。

 わたしには怪人が歌姫たちを解放した理由が分からなかった。だけど怪人が最後まで歌姫の前で仮面を外さなかった理由は、なんとなく分かってしまった。

 彼はきっと、自分を偽らなければ他人を愛することも、他人から愛されることもできないのだ。それほどまでに自信というものを喪失してしまっているのだろう。

 そう思うと、梓ちゃんや蕾華、お兄ちゃんに対して嘘をついている自分が惨めに思えて、涙が止まらなかった。

 蕾華と一緒に居ると嬉しいし、今日のお泊まりもとても楽しかった。

 蕾華の家には何の不満もない。

 だけど今日の半日を過ごし、恋人としての好きを探すなんて言ってもお泊りなんてお兄ちゃんから逃げているだけだと気が付いた。

 気が付いた以上はきっと、これ以上逃げてはいけないのだろう。

 わたしは、お兄ちゃんの傍から離れずに七搦広務のことを恋人として好きになるのだ。

 朝が来たら予定を切り上げてお兄ちゃんの待つ家に帰ろう。そう決めて蕾華の肩に寄り添って目を閉じた。

 映画を一日に三本も見て疲れていたのか、じっとしているとすぐに眠気に襲われた。

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