第5話 Apple

 「私はね、容姿が美しいからと継母に何度も殺されかけたの。今は探知できないこの森で安心して暮らせているわ。小人さんたちも守ってくれているしね。私はここで、この世界から悪を撲滅させる方法はないかと日々研究しているの。そこで今回開発したのが、飲むとその人の中から「悪」が消える薬 “apple” ってわけ。まだ、安全性もわからないし、誰にも試したことがないけれど…。」


「白雪、その役目、僕に務めさせてもらえないだろうか?僕は、城から追放され、王…実の父が、許せない心がある。僕の中から完全に悪い心を消し去りたい。そして、この薬の効能を実証して、君の力になりたい。そして、いつの日か共に清らかで美しい世の中を作り、君と結婚したい。」


 薬の効能など全く信じていなかったカイザーは、appleを飲み、悪い心が消えたフリをして、更に信頼を手堅いものにしようと、白雪の手を取り、熱く語った。


「本当に?嬉しい。でも、カイザーは元々心が清らかな人だから、飲んでも変化がないかもしれないわ。実証実験になるかしら??」

とクスクスと笑った。


 そして、カイザーは薬を飲んだ。飲んでも何の変化もなく、『やはり、ただのまやかしか…。』

 ―――そう思った瞬間、心臓がドクンッと波打ち、全身から火が噴き出ているような痛みと苦しみが襲った。


「し…白雪…。助けて…。」

膝から崩れ落ち、もがき苦しむカイザー。

「あぁ、カイザー!!!なんということなの!!」

心配そうに見下ろす白雪。


「…そうそう、伝え忘れていたわ。この薬はね、『悪』が強すぎると、薬の効能が高まって、死に至ることがあるの。あなた…どれほどの『悪』を持っていたのかしらね?」

そう続ける白雪の顔には、何の感情も宿さない黒い瞳が光っていた。


「 “apple” は禁断の果実よ。この世に存在してはいけないもの。悪をこの世から完全になくすなんて夢物語よね。…あら、もう聞こえていないわね。」


 研究室の奥から7人目の小人が出てきた。この小人が(オリジナル)で、他の6人はこの小人のクローンだった。


「 “apple” は失敗だったのかい?」


「いいえ。おそらく成功よ。 “apple” は、『私にとっての害悪』を排除するための薬だもの。小人のクローンたちは、飲んでも全く変化はなかったわ。私に対する少しの反逆心は薬を飲むと消滅し、消せないほど大きな反逆心を持つ者が飲むと死に至る。私はこのappleを使って、あの女に復讐し、あの国の王となるわ。」


「かわいそうにのぅ…。」

カイザーを見ながら、ぼやく(オリジナル)。


「仕方ないわ。あの女の息子だもの。腹違いの弟と一緒に復讐が出来たら、もっと面白かったでしょうけど。」

カイザーと同じ表情で、ニヤリと笑う白雪。


 その顔を見つめて

「かわいそうにのぅ…。」

と、また(オリジナル)が小さくつぶやいたことに白雪は気付かなかった。


*****


フォンッ………


誰もいない暗闇でmirrorAIが起動する。


「mirrorAIよ、この世で最も悪い人間は誰だ??」


「はい、それは

…………………………………」



                       【おわり】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Mirror of Evil【悪を映す鏡】 いしも・ともり @ishimotomori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ