第5話 「勇者」は何故死なないのか

事はリーシェルエンが「勇者友梨」に出会って数時間後、昼休みの事である。

「リーシェちゃんはいろんな国を渡り歩いてるんだ  

 ね!」

「そうね。でも、友達標的とすぐに分かれるの

 は少し悲しいかも。」

かなり打ち解けていた。

「リーシェちゃん日本語上手だよ!」

「そう?ありがとう。でも、あまり難しいのはわか

 らないから、教えてくれると助かるわ。」

「オッケー!任しとけ!」

昼休みの時間なのもあってか他のクラスの級友の所へ行ってしまった一部のやかましい男子と女子以外の残りしかいないからか、教室は少し空いていた。

「お、友梨ー!一緒にお昼食べよー」

「なんかめっちゃカワイイ娘いる!?」

偶然にも隣の席だった友梨の元へ2人の女子が話しかけた。

「今日転校してきたリーシェちゃんだよー!ほら、

 挨拶挨拶!」

「はじめまして。転校生のシャルエッテ・フォン・

 リーシェルエンです。これから宜しくお願いしま

 すね?」

狂信者ヴァリトスに教え込まれた定例文をありのまま放つ。

「へぇ……これがその噂の……」

2人の内、メガネを掛けた方がリーシェルエンをジロジロと見つめる。

「え、ええと……?」

「ふむ。」

メガネをかけた方の少女がリーシェルエンの肩を掴む。

「ねぇ、リーシェルエン……いや、リーシェちゃ

 ん。一つ、お願いがあるんだけど」

「な、なにかしら?」

「同人誌のモデルやってくんない?」

は……?とリーシェルエンは硬直する。

高校生ならば、読んでしまう者もいるだろう。

だが、彼女、秤莉子はかり りこは違う。

彼女は書く……即ち読まれる側なのだ。

「え……えと?」

「いや大丈夫『初めて』は奪ったりしないから!

 ただ百合をしてほしいだけだから!ね?駄目?」

物凄い剣幕でリーシェルエンを説得しようとする。

が、

「え、えっと……一ついいかしら?」

「給料なら弾むよ?」

「いえそうではなくて……その……」

「もしかして三百合派?」

「ええっと……そのドウジンシって、何かしら?」

友梨とリーシェルエンを除く、クラス全員がフリーズした。

ある者は驚愕の表情で。

またある者は感嘆の表情で。

さらにまたある者は感謝の表情で。

「え……マジで知らないの?同人誌」

「え、えぇ。」

莉子が顔を両手で覆い、思い切り振りかぶる。

「そうか……知らないか……」

「もしよろしければ教えてほしいのだけれど。」

リーシェルエンは無垢な顔で聞く。


莉子がこれを説明仕切るまで、昼休みが足りなくなったのは言うまでもない。


放課後、帰路にて

「聞かなきゃよかったわ……」

自分が聞いたことの真実をじっくりコトコト丁寧に説明され、リーシェルエンは恥ずかしいとかのレベルではなくなっていた。

なんだって、同人誌だから、ねぇ?

「災難だったねー」

友梨はあっけらかんと返した。

「いやマジですんませんした」

莉子は土下座の勢いで頭を下げる。

「ま、まぁまぁ。知識が増えたと思えば、ね?

 好きな人が出来たら使える知識かもしれない

 し!ポジティブだよポジティブ」

莉子の隣にいたもう一人の少女、夏又零下もフォローに入る。

「え、えぇ。いつ使うか分からないけどね……」


更に歩いて数分。

莉子と零下は別の道で帰っていった。

つまりは、2人きり。

「いやー、まさか転校生とこんな仲良くなれるとは

 ねー」

「私も、あなたと『友達』になれて嬉しかったわ

 よ」

ナイフを取り出す。

人気はない。明細色覚も機能している。

『勇者殺し』を発動する。

ゆっくり、ゆっくり。

目の前の勇者を絞め殺すように。

そして、頸動脈にナイフを突き刺す。

グチュ、ブシッ

肉がちぎれ、血が噴き出す。

友梨の身体が死後痙攣を起こす。

友梨の身体が完全に停止する。

「これで……終わり。」

血飛沫で飛んだ血を消し去り、友梨を山の、岩石の下に投げ入れる。

「……帰るか。」

そうして、来た道を通り、大通りを通りかかったその時

「おーい!リーシェちゃーん!」

声が、聞こえた。

本能が警告する。

ありえない。だってさっき、確実にーー

本能を無理矢理理性で押さえ付け、声の方を向く。

「やっと追いついたー!」

そこには息を乱しながら駆け寄ってくる友梨の姿があった。

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勇者殺しのリーシェルエン MasterMM @Mastermm

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