第4話 鼓動を鳴らせ
「は、ちょ、え?」
おいおい、一体こいつはどういう状況だ? なんで奴隷監督が撃たれてる。そしてこいつ。左目は奴らと同じ漆黒の目をしているが、右目は俺らと同じ蒼眼。俺たちの味方なのか? それに、革命だと?
「名乗りがまだだったな。私はユードラ。ヤマト人の母と異国人の父を持つしがない学者だ」
「が、学者って……なら何で、奴隷監督を殺したんだ! 見た感じ、仲間みたいな雰囲気だったろ」
俺は困惑のあまり、矢継ぎ早に質問した。殴られた時の痛みや、磔にされている間隔など、この時は微塵も感じなかった。
「ふん、私はいわゆる『工作員』として向こうに潜入していたまで。こうして右目を隠してしまったら、ヤマト人には見えんからな」
そう言って、ユードラは自身の目に手を当てた。確かに、まんまルーブ人だ。
「それより……君に聞いておかなければいけないことがあるんだ」
「な、なんだよ」
「君はさっき、奴隷監督が嫌いと言ってたよな。私も同感だ。そして、同胞が他国の者によって虐げられている現状にも殺意が湧く。それは君も同じだろう」
「ああ。もちろんだ」
「なら、私と手を組もう。手始めにここを支配しているクソッタレ共の本丸をぶっ壊す。そうして、まずは自由を手にいれよう」
ユードラは終始不敵な笑みを浮かべたまま、話をしている。だが、こいつ……だいぶ無理なことを言っているって気づいているのか?
「おお、いいじゃねぇか。でもな、物事には限度ってものがあるんだ。せめて鉄砲やら大砲やらがあればいいんだが、俺らのような丸腰労働者が挑んだ所で……犬死にするのがオチだろ」
俺は半ばバカにしたような顔で言った。学者様と言えども、戦術に関してはからっきしなんだな。
俺だって、マサトシとの約束は果たしたい。でも、この身体、この戦力じゃあ……
「ふふふ、そんなこと想定済みさ。だから、今日は君に力を与えに来た」
するとユードラは、その異国風な赤色の衣服から、何かを取り出した。
「これは……?」
ユードラの手に握られていたのは、手のひらほどの大きさの球体であった。その色は赤黒く、光沢などは一切無い。禍々しさに溢れている、そんな印象だ。
「食え」
「え?」
「もし食えば、この状況を打開し、全てを覆すほどの圧倒的な力を手に入れられる。さぁ、早く!」
ユードラは必死な顔で、俺の口にそれを押し当てる。だが、まぁ、絶対に食い物じゃない。色がやばいし。匂いは無いが、それが逆に怪しい。もしかして、毒とか。
いや、それは無い。わざわざ奴隷監督を殺してまで、俺に毒は食わせないだろう。多分、いや、信じることは難しいが……ユードラはこれを、完璧な善意で食わせようとしている。
ユードラを信じて食うか、食わずそのまま死ぬか――
「そういや、マサトシがよく言ってたっけ。『博打は打った時点で勝ちだ。自分で選んだ道に、失敗などあるものか』ってな」
そうか、これこそ『どうせ死ぬなら』ってやつだな。なら……
「へっ、やってやろじゃねぇの!」
俺はそう叫んでから、眼前に置かれた球体を丸呑みにした。
「!?」
飲み込んだ瞬間、腹の奥から急に熱気が溢れてきた。熱気と言うより、燃え盛る火炎、と表した方がいいかもしれない。
でも、痛くはない。むしろ清々しいまである。そして、その火炎たちは内から身体の隅々を通り、出口を求めてうねり回っている。
「これが、力……」
俺はそれらを全て解放した。その刹那、火炎は実態を持った存在として俺の身体から放出され、俺を磔にしていた十字架を跡形も無く燃え尽くした。
「これ、俺がやったのか……」
なんだこれ。これがいわゆる
「ははははは! 素晴らしい! 素晴らしいよ! さぁ、そのままあそこにいるゴミ共を吹き飛ばしてみろ! 奴らが逃げ帰る前に!」
ユードラはまるで宝物を見つけた子供のような笑顔で笑い、群衆から少し離れた所をを指さした。そこには、明らかに俺たちとは違う、裕福そうな男たち――奴隷主が数人いた。
「どうすれば、俺はあいつらを潰せる」
「手に力を込めて、念じろ。大事なのは明確な殺意と自由への意思だ」
「了解」
ユードラの言うように、俺は人差し指を奴隷主たちの方へと向ける。奴らは逃げようとしている――逃げれると思うなよ。
眉間をぎゅっと縮め、的を絞る。そして、怒りと自由への意志を、その右手に叩き込んだ。
「滅」
俺の指から、光の弾が矢のように飛び出した。それは凄まじい速度で奴隷主たちの方向に向かっていく。まっすぐと、純粋に。
「ぎゃああああ!」
光弾が奴らに着弾した瞬間、突然それは大きな音と熱を帯びた爆発を起こした。その火力は、奴らの肉片さえも残さぬ、隷属への号砲であった。
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