おれが殺して殺されるまで

赤夜燈

そんなつもりじゃなかったと言えば嘘になる。

禍月まがつき千景ちかげという男はおれの長年のダチで、背筋が寒くなりそうな美形でさらさらの青みがかった黒髪をポニーテールにしていつもサングラスの奥に真っ暗な瞳を隠してへらへらと笑っていてなんでもかんでも許してくれる良い奴で、だからおれがヤクに手を出しても女に刺されても刺されたついでにその女を逆上して刺し殺してもへらへらと笑っていた。


きみを裁くのは俺の仕事じゃなくて法律とかかみさまがやることだからなんて言いやがる。そんなこんなでバラバラにした女の死体を一緒に埋めてくれて、ああこいつならなにをしても許してくれるんだと思ったのがそもそもの間違いだった。


こいつを殺したいと、ある日ふと思ったのだ。

今ならそれができると、気づいてしまったのだ。


だってこいつには友達がたくさんいる。街を歩けば大概のやつがこいつに見蕩みとれやがる。こいつはおれのものだと言いたくなった。世界中にそう自慢してやりたくなったのだ。


だからおれはスコップで千景の頭を思い切り殴った。


ごいん、だとかがつん、だとか鈍い音がして、千景は倒れ――


殴った感触も鉄を殴ってるみたいで、おれはやっぱりこいつは人間じゃないのだとそのときようやく目を逸らしていた事実に向き合うことになる。


だってコイツは10年も20年もどころか40年くらいずっと同じ顔でずっと変わらない体型で、おれは小学生からよれよれのおっさんになっちまって頭も薄くて腹も出ている。わかっていたんだ、人間なんかじゃないと。おれなんかに殺せるものじゃないと。おれのものになんかできないと。


千景がおれの頭を撫でる。そのまま握力だけで頭を潰した。痛みは感じなかった。ああおれは千景の一部になれるんだとそれだけがうれしくてうれしくてしかたなかった。


ごめんね、ばれちゃったら生かしておけないからね、それにしても長く付き合いすぎた、きみが好きだったからね、と千景は俺の脳味噌も肉も骨も魂ごと咀嚼して全部平らげてしまい、おれはただ禍月千景というよくわからないけど美しいものの一部になれたうれしさでうっとりとしたまま消滅する。

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