住所不定の無職は異世界でモテモテハーレムを作る!?

赤青黄

餓鬼の叫び

 「くず、くず、くず。俺以外の奴らは全員クズだ!」

 生ごみの臭いが充満する、ごみ袋の上で男が恨み節を天に向かって叫ぶ。その叫びはまるでわがままを言う餓鬼のように、涙をこらえながら叫ぶ。

 「くだらない。本当にくだらない!」友も親も、親しい人もいない男は、誰にもぶつけられない恨みを天なる空にぶつける。そんな行為は無意味だとわかっていている。だがやめられない。

 誰からも愛されず、誰からも期待されず、誰からも褒められなかった、男は涙をこらえ、天を睨む。一通り罵詈雑言を天に向かって吐き飽きた頃、男の体は熱を失っていた。

 どうしようもない運命と、くだらない人生に不満足しながらゆっくりとまぶたが重くなる。感覚が遠のき、意識が朦朧としてくる。死を感じ取りながら最後にこの世界を見つめる。空は濁り、あたりはごみの山、空気は荒み、もはや人の住むところではない場所に思いをはせながら、完全に瞼が落ちる。これから俺は死ぬ。そう感じ取った男は最後の最後に、心の内に秘めていた本心が零れ落ちた。

 「愛されたかった。」と吐露した後に、男の体は腐る肉塊となり果てた。


 「ねえ、あなた、この子の名前は決まった?」優しい声が聞こえてくる。柔らかく温かいまるでシーツのような純白な声が聞こえてくる。

 「悪い、まだ決めかねてる。俺とお前との子だ立派な名前を付けてやりてえ。もう少し考えさせてくれ。」そんな純白の声に反応して凛々しく、重低感のある声が聞こえてくる。燃え上がる炎のように荒々しく、吸い込まれるかのような、漆黒の声が聞こえてくる。

 相反するはずの二つの魂が一つの愛を作り上げる、どこか遠い、刹那な情景、忘れていた彼方の記憶。触れば雪のように崩れ去っていしまうほどの儚い感覚と共に、一人の男が目覚める。

 「…あ、ここは、俺は死んだはずじゃあ。」と、かすれた声を出しながら、男は揺られる瞳を押さえつけ、あたりを見渡す。

 いつもならそこは埋もれたごみによって生み出された堕落の城だったが、それとは反対の緑かおる、草原が目に入ってくる。

 ゴミ袋の上にいたはずなのに、空気は澄、優しい温もりを感じ取る感覚、ここは天国なのだろうか。地面に敷かれている芝生を触りながら男は酸素不足の脳を回す。まだ上手く回り切れていない頭を無理やり動かそうとするが上手く動かせない。

 いつもならすぐに頭のスイッチが入るのだが今回は違う。ぐーとお腹がなく音が響き渡り空っぽのお腹を撫でる。

 「腹減ったな。」と空腹感を感じていると。

 何処からともなく、女性の糸が切れたかのような細い悲鳴が響き渡る。

 男は無いがとかと上半身を起き上がらせ、立ち上がる。全身に血液を送りながら、ヨタヨタと悲鳴の方向に足を進めた。

 悲鳴の元は美しい女性だった。小麦畑を連想する絹のようなブロンドの髪をなびかせ、白くハリのある肌から、赤い切れ筋が一本浮かび上がっている。つまり襲われているのだ。

 女性の目の前には人間がいた。いや人間と表現していいものなのか、その体は普通よりも一回り小さく、皮膚は苔むしたかのように緑で、何より口元から漂ってくる人の腐敗した匂いが人間ではないと証明している。

 その光景を見て、男はますます混乱するが一つだけわかったことがある。ここは男のいた世界ではない。そうさしずめ、異世界にやってきてしまったらしい。

 「やめて!来ないで!」そうこうしている内に女性の衣服ははぎ取られ、あられもない姿をさらしている。どうやら異形な者にやられたらしい。ぐちゃぐちゃといやらしく笑いながら女性の恐怖を煽るかのように鋭くとがった歯を見せる。これから生きたまま食べられてしまう。そんな運命を感じ取った女性はわなわなと震えながら、失禁する。もう美味しいものも、優しい昼寝も、愛する声も聞こえない、闇に帰ってしまう。そう感じ取りながら涙を貯めた目を閉じた。

 ぐちゃぐちゃと咀嚼する男が草原に響き渡る。生きようともがく手足と音と悲鳴をかみ殺すこぼれた声、ゆっくりと目を開けると異形の者が食われていた。

 赤く滴る内臓が緑の草原を上書きし、透き通る空気はどんよりと濁る。異形の者の抵抗は激しく自分を食らうものの頭を思いっ切り叩くが、その咀嚼音がなくなることは無い、しばらくすると抵抗はなくなり、ぐったりと人形のように芯が無くなった。  

 そして異形の者がこのように存在を示すものはなくなり、あたりには赤く咲く血の花だけが残されていた。

 異常な光景に女性はあらゆる感覚が鈍感になる。助かった安堵感と、得体の知れない者への恐怖感が同時に襲い、ウルボロスのように絡み合う。

 目の前にいる男性は口元に残った僅かな血を拭いあった後に、女性に向かって口を開く。

 「ふー、少しだけましになった。さてと。おいあんた、助けてやったんだ。この世界の情報と金目のものを置いてけ。」と荒ぶる男は鋭く光る眼光で睨みつける。

 こんな意味不明な状況にキャパオーバーした女性は意識を彼方へに放り投げた。

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住所不定の無職は異世界でモテモテハーレムを作る!? 赤青黄 @kakikuke098

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